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弁護士 後藤 亜由夢

会社売却の試算方法・相場より高く売却する秘訣と注意点を解説

中小企業の後継者不在問題が社会問題化する中、会社を次世代に引き継ぐ事業承継の手段として、会社の売却を選択する経営者の方が増えています。

会社の売却を検討中の方の中には、「会社の売却価格の試算方法を知りたい」、「売却時にかかる税金や手数料の相場を知りたい」、「できるかぎり高値で売却するための秘訣を知りたい」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、会社の売却価格の試算方法、売却時にかかる税金や手数料、相場より高く売却する秘訣、会社売却時の注意点などについて解説します。

会社の売却価格の試算方法

M&Aで会社を売却する際の手続は、一般的には、売り手側が売買価格を提示して、その価格を基準に買い手側と交渉するという流れで進められます。事業承継を目的としたM&Aにおいては、その売却の対象会社は非上場会社です。非上場会社には、証券取引所による株価がありませんので、会社の価値が客観的には明らかではありません。そうすると、このような非上場会社の売却価格を試算するためには、企業価値、つまり会社の価値を測定し、株式の価値を独自に測定する必要があるということになります。その基準となる売買価格を算出する際に主に用いられる代表的な方法は、以下の3つの方法です。

  • ネットアセット・アプローチ(純資産価格方式)
  • インカム・アプローチ(将来キャッシュ・フローから算出する方法)
  • マーケット・アプローチ(同業他社比較方式)

それぞれの算出方法の概要について説明します。

1. ネットアセット・アプローチ(純資産価格方式)

ネットアセット・アプローチとは、会社の企業価値を貸借対照表の純資産を基準に算定する方式です。貸借対照表の純資産額は、資産から負債を控除した額であり、会社の所有者である株主に帰属する部分です。つまり、「純資産額=会社の価値」と考え、一株当たりの企業価値は「純資産額÷発行済み株式数」といえます。

もっとも、貸借対照表は原則として、資産と負債が取得価格で記載されているため、貸借対照表の純資産額を基にすると、会社の現在の企業価値を反映することができません。例えば、30年前に100万円で買った土地が、その後に価値が高騰し、時価が一億円となっていたとしても、貸借対照表は「土地100万円」と記載されています。そうすると、貸借対照表を基にして企業価値を算定すると、当然に現在の会社の価値とは大きくズレが生じてくることになります。

そのため、企業価値の評価をより現在の実態に近づけて算定するために、貸借対照表の資産負債を時価で評価し直して純資産額を算出し、一株当たりの時価純資産額をもって企業価値とする時価純資産法が採用されることもあります(むしろ純資産価格方式により企業価値を評価する場合は、時価純資産法を採用する場合が多いです)。
時価純資産法とは、貸借対照表の資産負債を時価で評価し直して純資産額を算出し、一株当たりの時価純資産額をもって株主価値とする方法です。会社の資産には、土地、建物、設備などの有形の資産はもちろん、商標権等の知的財産権などの無形資産も含まれます。会社の資産の時価評価することにより、会社が持つ超過収益力(のれん)も測定することができ、会社の株主価値をより厳密に把握することができます。また、資産のみならず、負債についても時価評価を行うことになります。会社の時価純資産額は、時価評価された資産から、時価評価された負債を控除した金額となります。

ネットアセット・アプローチは、インカム・アプローチなどに比べ、計算方法が比較的簡単なので、中小企業を売却する際に用いられることが多いです。ただし、時価純資産法には、将来的な利益が反映されにくいというデメリットがあります。言い換えると、超過収益力を評価したとしても、将来キャッシュ・フローを株式価値に取り込みにくい方法といえます。そのため、時価純資産法は現時点で比較的規模の大きい資産を保有している企業に向いていると言われています。

2. インカム・アプローチ(将来キャッシュ・フローから算出する方法)

インカム・アプローチとは、将来に生み出すと期待されるキャッシュ・フローに基づいて評価対象会社の価値を評価する方法です。
キャッシュ・フローという言葉は、ビジネスにおいてはよく聞く言葉であると思うのですが、ここで疑問に思うのは「そもそもキャッシュ・フローって何?」ということでしょう。キャッシュ・フローという概念はその場面や解釈ごとに多義的な言葉ですが、ものすごく単純にいうと言葉のままであり、会社の事業活動により会社にキャッシュ(現金)が入ってくることをいいます。
なぜキャッシュ・フローという概念が必要になるかといえば、そもそも会社の目的は、会社がたくさんキャッシュを稼ぎ、一部を株主に配当し、一部をさらに投資してまたキャッシュを稼ぎ・・というのを永遠に繰り返すことです。もっとも、会社の経営成績を示す損益計算書の売上、仕入の金額は、必ずしもお金の動きと一致していないため(これを実現主義や発生主義といいます。)、会社が獲得した純然たるキャッシュ・フローの金額というのは、資金繰りや事業計画作成のために、別途把握する必要があるのです。
そして、会社の価値は全株式の価値と同義ですが、株式の価値というのは、結局その会社が将来的にいくらキャッシュを稼ぐことができるかといえます。つまり、インカム・アプローチによる企業価値とは、その会社が将来的にいくらキャッシュを稼ぐことができるかに着目した方法であり、端的にいえば「将来のキャッシュ・フローの割引現在価値の合計額」ということになります。

ここで、割引現在価値とは、将来の特定の時点に得ることができるキャッシュを、現在の価値に直した金額をいいます。
例えば、仮に10万円を国に預けた場合、1年で10%の金利が付くと仮定します(この10%を割引率といいます)。そうすると、現在の10万円は、1年間で無リスクで11万円に増やすことができることになります(通常、お金を国に預けておけば、約束どおり利子付きで返還されます)。
逆に言うと、1年後の11万円と今の10万円は同じ価値である、ということができます。このことから、1年後の11万円を割引現在価値に直すと10万円になる、ということができます。
算出された将来キャッシュ・フローを元に、割引率を用いて現在の割引現在価値たる企業価値を算出します。この方法により企業価値を算出する方法をDCF法(Discounted Cash Flow)といいます)。DCF法では、将来的な利益を算出するために、事業計画書を作成し、その事業計画書に基づいて将来キャッシュ・フローを算出します。
割引率は、将来キャッシュ・フローの獲得の不確実性(リスク)などにより決定されます。割引率を高く設定するほど、企業価値は低く算出されます。つまり、信頼性の高い企業ほどリスクが低いため企業価値が高く算出され、設立したてのベンチャー企業などはリスクが高いため割引率が高めに設定されることになり、企業価値は低く算出されます。ただし、注目されている分野で優れた技術力を持ち、大きな成長が見込めるスタートアップ・ベンチャー企業の場合は、将来キャッシュ・フローが高めに算定されることや、又はリスクが低いと評価され割引率が低く設定されることで、高額な企業価格が算定される場合もあります。
繰り返しになりますが、会社の目的はキャッシュをたくさん稼ぐことにあるため、将来会社が獲得するキャッシュ・フローにより企業価値を算出するDCF法は、理論上は最も優れているといえます。もっとも、割引率を何%にするか、将来キャッシュ・フローをいくらと見込むか等、見積の要素が多分に介入するため、厳密な算定が困難な方法といえます。
また、事業計画の信憑性が算出される価格に大きな影響を与えるという点もデメリットの一つと言えるでしょう。

3. マーケット・アプローチ(同業他社比較方式)

マーケット・アプローチとは、上場している同業他社や類似取引事例など、類似する会社、事業、ないし取引事例と比較することによって相対的にある会社の価値を評価する方式です。例えば、上場会社の市場株価と比較して、非上場会社の株式を評価する類似上場会社法などがあります
類似上場会社法とは、上場している類似会社の株式市場の価格を元にして売却価格を算出する方法です。この計算には、企業価値を測定したい非上場株式と類似する上場企業を選定し、選定した上場企業の純資産などの金額を調整することで、非上場会社の企業価値を算定します。具体的には、上場企業の中から業種、取り扱い製品、事業規模、収益性等が同レベルの会社を複数選定し、調整することにより企業価値を算出することになります。選定する企業によって、算出される価格が大きく変動する可能性があるため、類似企業が少ない場合は採用されません。また、独自の技術を持つ企業が多い業種の場合、類似企業の選出基準が非常に難しくなるというデメリットもあります。

売却時にかかる税金

会社を売却する際には、税金のシミュレーションをしておくことが大切です。税金の種類や税率は、売却の手法によって異なります。中小企業の売却時に用いられることが多い株式譲渡と事業譲渡の税金について説明します。

1. 株式譲渡の税金

株式譲渡の税金は、譲渡を行う株主が、個人か法人かによって課税される税金が異なります。
個人の場合は、所得税(譲渡所得)、復興特別所得税、個人住民税が課税されます。2020年現在、所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315% (2037年まで)の計20.315%の税金がかかります。
法人の場合、株式の売却益に対し、資本金1億円以下の法人であれば約34%(法人税、地方法人税、都道府県民税、事業税、地方法人特別税)の税率で課税されます。
もっとも、M&Aが行われた場合の税金については、選択されるスキームや個別の事情により異なりますので、個別の事例ごとの税務についてはM&Aアドバイザーや税理士・公認会計士に確認することが必須です。

2. 事業譲渡の税金

事業譲渡の場合は、譲渡益は事業を譲り渡す法人に帰属します。法人に課される税金については上記と同様です。
また、株式譲渡とは違って、土地など消費税の対象外となるもの以外に対しては、消費税が課税されるため注意が必要です。

会社売却時の手数料の内訳と注意点

会社を売却する際は一般的にM&Aの仲介業者を利用することになるため、仲介業者に支払う手数料も把握しておく必要があります。M&Aの仲介業者の手数料の内訳や注意点について説明します。

1.手数料は業社によって大きく異なる

M&A仲介業者の手数料は各業者が自由に設定できるため、業社によって手数料は大きく異なります。主な手数料の内訳は以下のとおりです。

  • 相談料:正式な依頼前の相談時にかかる手数料
  • 着手金:買い手候補を選出して交渉するための手数料
  • 中間金:買い手側の企業と基本合意契約を締結した際に支払う手数料
  • リテイナーフィー:買い手候補の紹介や交渉のサポート等にかかる月額費用
  • デューデリジェンス費用:法務、財務などの調査のための費用
  • 成功報酬:M&Aが成立して最終契約を結んだ後に支払う手数料で、一般的に売買額に応じた比率で計算されるレーマン方式と呼ばれる計算方式が用いられている

リテイナーフィーは、M&Aの交渉が成立するまでの期間、月額定額制で支払う場合が多いのですが、交渉期間が長引く程、総支払額が増えるという点には注意が必要です。

2.成功報酬型の業社の注意点

最近は、相談料、着手金、リテイナーフィー、デューデリジェンス費用などは全て無料で、M&Aが成立した場合のみ費用が発生する成功報酬型を採用する業社も存在します。
成功報酬型の基本は、M&Aが成立して売却利益が振り込まれた後に手数料を支払うという仕組みです。ただし、中には基本合意契約の締結時にも中間金として成功報酬額の10~20%を支払う必要があるというケースもあります。公式サイトなどで「完全成功報酬型」を謳っている場合は、M&Aが成立するまでは一切支払が発生しないと思われがちですが、必ずしも中間金の支払が不要とは限りません。成功報酬型の業社を選ぶ場合は、支払のタイミングについて事前にしっかり確認しておきましょう。

また、成功報酬型の仲介業者はM&Aを成立させなければ報酬を得られないため、中には条件などをよく聞くことなく契約を急がせる業社も存在します。「この会社なら通常よりも高額で売却できます。このチャンスは絶対逃さない方がいいですよ。」などと急かされても、安易に契約しないように注意しましょう。

3.最低料金の確認も必要

M&Aの成立後に支払う成功報酬は、一般的に売買額に応じた比率で計算されるレーマン方式と呼ばれる計算方式が用いられますが、最低手数料が設定されている場合が多いため注意が必要です。最低手数料は売買額に関わらず、支払う必要がある手数料のことです。
極端な例ですが、最低手数料が500万円と設定されていた場合、企業が500万円で売却されても手数料の500万円を引くと手元に残る金額はゼロとなります。
M&A仲介業者に高額な手数料を取られて手元に残る金額が予想以上に少なかったという失敗を避けるためにも、M&A仲介業者の手数料をしっかり把握しておくことが大切です。

相場より高く売却する秘訣

売買価格の試算方法について前述しましたが、実際のM&Aでは試算額よりも高額での売却が実現するケースも多々あります。高額で売却する秘訣について説明します。

1.タイミングが重要

高額での売却を実現するためには売却するタイミングが重要です。現在は赤字が続いているけれど、近い将来に赤字から脱却できる可能性がある場合は、黒字化してから売却した方が、より高い価格で売却できる可能性が高まります。逆に、現在は黒字だけど、業界自体の変化等により、将来的に業績が悪化する可能性が高い場合は、できる限り早いタイミングで売却に踏み切ることが高額での売却を実現する秘訣となります。
買い手企業側のタイミングにより売却価格が上がる場合もあります。例えば、新しい経営者が就任して独自の戦略を打ち出したいという大手企業が、戦略にマッチした企業を高値で買収するというケースもあります。このようなチャンスを狙うためには、できる限り早めに準備を始めてM&A仲介業者に相談することが大切です。

2.自社の魅力を客観的に分析する

高額での売却を実現するためには、買い手側の立場に立って、自社が持つ魅力や価値を客観的に分析することが大切です。
特許取得済の独自技術や商標権などの知的財産権を持つ企業は、高値でも買いたいという企業が現れる可能性が高いです。特に日本の製造業の高度な技術力は世界的にも評価されているので、特殊な加工技術などを持つ製造業は中小企業といえども、海外の企業から注目されているケースもあります。

また、生産拠点がないエリアに進出したいと考えている企業にとっては、その拠点に工場や設備を持つ同業社は非常に魅力的です。自社の魅力や価値は、経営者にとっては当たり前過ぎて見過ごしてしまう場合もありますので、豊富な実績を持つM&A仲介業者から客観的なアドバイスを受けながら分析を進めることが望ましいでしょう。

会社売却時の注意点

最後に会社を売却する際の準備作業や注意点について説明します。

1.査定を受ける前の準備作業は万全に

M&A仲介業者で売却額の査定を受ける前には、準備作業をしっかり行うことが大切です。
まずは自社の業界内での立ち位置や業界の動向などを分析し、3~5年程度の成長戦略を複数考えて、資料にまとめます。買い手側の企業によって魅力を感じる点は異なりますので、成長戦略は最低でも3つ以上の案を用意することをおすすめします。根拠となるデータなども揃えて、わかりやすく説得力のある資料としてまとめておくことが大切です。

2.高値で売却するより大切なこと

M&Aの仲介業者に相談すると、売却額に目が行きがちになりますが、会社の売却を本当の意味で成功させるためには高値で売却するよりも大切なことがあります。それは、次世代に向けた会社の発展と従業員の幸せです。
M&Aは企業間の結婚に例えられることもあります。売却額などの数字や条件だけではなく、経営理念を引き継いでもらえるか、社員の雇用を守ってもらえるかなど、絶対に譲れない条件をM&Aの仲介業者にしっかり伝えることが、会社の売却を本当の意味で成功させるためのポイントとなります。

買い手側がファンドや海外の企業の場合、比較的、高額での売却が実現する可能性が高いですが、従業員の幸せを守ることにつながらないケースもあるため注意が必要です。
買い手側の企業がファンドの場合、一般的に利益重視で経営が行われるため、能力の低い従業員はリストラで切り捨てられる可能性があります。また、買収後に業績が伸び悩むと短期間で他社に転売されてしまう可能性もあるという点も認識しておきましょう。

また、買い手側の企業が海外の企業の場合、売却と同時に海外進出できるという大きなメリットがある反面、職場環境が大きく変動する可能性があり、従業員が変化についていけないかもしれません。また、ファンドと同様に、経営の合理化が徹底されているため、業績が不振な部門や成果がでていない事業については、リストラとして部門・事業の切り離しや事業譲渡が行われる可能性もあります。
M&Aの仲介業者に相談する際には、売却の条件を明確に伝えることで、会社の発展と従業員の幸せを叶えてくれる相手への売却を実現できる可能性も高まります。

まとめ

今回は、会社の売却価格の試算方法、売却時にかかる税金や手数料、相場より高く売却する秘訣、会社売却時の注意点について解説しました。

会社を売却する際には、売却価格、手続、税金などを考慮に入れ、適切な意思決定を行う必要があります。加えて忘れてはいけないことは、経営者が従業員と共に歩んできた歴史と、将来の会社への想いです。経営者が長い間大切にしてきた理念と守り続けてきた従業員をしっかり引き継いでくれる企業を売却先として選ぶことが大切です。

私たち東京スタートアップ法律事務所は、次世代の経営者への引き継ぎを確実に成功させたいという経営者の方々を応援しています。法律・会計・経営のプロとして、各企業の状況や方針に合わせた会社売却について多角的なアドバイスも行っておりますので、会社の売却に関してお悩みの方はお気軽にご相談ください。

弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。