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弁護士 後藤 亜由夢

事業承継とは何か?事業承継の意味、税制、進め方、後継者選びのポイントを解説

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことをいいます。事業承継により、現経営者は引退し、新しい経営者に事業を引き継ぐことになります。そのため、事業承継は経営者にとって最後の重大な任務です。しかし、日本の中小企業では、後継者不在により、経営者自らが廃業を選択するケースが増えており、社会問題となっています。

「会社を誰かに継ぎたいけれど、後継者候補が見つからない」という経営者の悩みの解決策として最近注目されているのが、M&Aによる事業承継です。かつての日本の中小企業では子供や親族に会社を継ぐ親族内承継が一般的でしたが、親族に事業を承継させたいと考える経営者が減少していることや、継承を希望する親族が不在であることなどから、最近はM&Aによる事業承継が選択されるケースも急増しています。

今回は、事業承継の概要、中小企業における後継者問題、事業承継税制、親族承継・従業員承継・M&Aによる事業承継の最近の傾向やメリット・デメリット、事業承継を成功させるためのポイントなどについて解説します。

事業承継のポイント

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。事業継承では、後継者への経営権の引継ぎにより、人、資産、知的財産等の承継が行われます。もっとも、物理的な資産や資源だけではなく、経営理念やノウハウなど、目に見えない経営資源を引き継ぐことも重要なポイントです。

事業継承において最も大切なことが後継者選びです。経営者の交代は従業員や取引先への影響も大きいため、後継者の選定は慎重に行う必要があります。事業承継後に安定した経営を維持するためには、後継者の選定から引き継ぎまでのプランをしっかり策定して、経営者自らが積極的に事業承継に取り組むことが大切です。

中小企業における後継者問題

日本では少子高齢化が進み、中小企業では後継者不在問題に悩む経営者が増えています。
中小企業庁の発表によると、2016年以降の中小企業の休廃業・解散件数は2000年と比較して約2倍まで増加しています。また、60歳以上の中小企業経営者の後継者不在率は48.7%にものぼるとのことです。つまり、日本の中小企業の60歳以上の経営者の約半数が、後継者として相応しい人物を見つけられていないことになります。60歳以上の経営者の中には、1947年から1949年生まれの団塊世代も含まれます。団塊世代は人口が多く、高度成長期の日本経済を支えてきた世代です。経営者として活躍されてきた方々も多いですが、高齢による引退の時期を迎え、後継者探しに苦労しているという現状があるのです。

経営承継円滑化法による税制優遇措置の概要

中小企業の後継者不在問題は、日本経済にも大きなダメージを及ぼす可能性がある社会的な問題です。2009年度の税制改正では、中小企業者の事業承継の円滑化を図ることを目的とした「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)が制定されました。

親族内承継の場合、贈与税の負担が大きいという問題がありましたが、経営承継円滑化法で定められた事業承継税制の要件を満たした場合、納税の猶予や免除が認められることになりました。経営承継円滑化法の制定当初は、要件が厳格すぎたために利用件数が伸び悩んでいましたが、その後の改正で要件が緩和されて利用しやすくなっています。また、事業承継税制も度々改正され、適用範囲が広がり、現在では親族以外が後継者となる場合にも適用されます。

事業承継における後継者候補

事業承継で後継者候補となるのは、①自分の息子などの親族、②親族以外の従業員、③それ以外の第三者という3つのパターンがあります。
過去には、日本では息子が家業を継ぐのが当たり前と考えられていた時代もありました。しかし、最近は少子化や価値観の変化により、親族内承継は大幅に減少しています。
①親族、②従業員、③それ以外の第三者という3つのパターンについて、それぞれの最近の傾向とメリット・デメリットを説明します。

① 親族内承継

自分が人生を賭けて築き上げた会社を自分の親族、特に子供に託したいと思うのは、経営者として当然のことかもしれません。しかし、最近は少子化や価値観の多様化により、自分の子供に継がせたいものの、後継者候補となる子供がいないというケースや、子供が承継を望まないというケースも増えています。また、中小企業の経営は資金繰りや従業員のマネジメントといった観点から、時として非常にハードな側面もありますから、最近では子供には別の人生を歩んでもらいたいと考える経営者も増えています。このことも親族内承継が減少している原因といえます。
以下、親族内承継の最近の傾向とメリット・デメリットについて説明します。

1.親族内承継は時代と共に減少

過去には、日本の中小企業の約8割が親族内承継だったという時代もあります。2015 年に中小企業庁が実施した調査結果では、事業を承継してから35年~40年経過している層の8割以上が先代経営者の親族だったそうです。

しかし、前述のとおり、時代と共に人々の価値観やライフスタイルが変化しているため、会社を継がせたい子供がいる場合でも、子供の方には継ぐ意思がないというケースも増えています。また、逆に子供が家業を継ぎたいと考えていても、経営者である親が景気や業界全体の先行きに不安を感じて、家業を継ぐよりも子供の将来のために別の仕事をしてほしいと望む場合もあります。

2. 親族内承継のメリット

親族内承継の最大のメリットは、親族が事業の承継を希望している場合には、従業員やその他の第三者に引き継ぐ場合に比べて、後継者の選定が簡単に行えることです。特に経営者の長男などに事業を承継させる場合は、周囲の反対も少なくスムーズに後継者が決まるのではないでしょうか。
また、経営者本人にとって、親族に事業を承継させることは心理的な安心感が大きいと思われます。特に、一代で会社を築き上げた創業者の場合、これまで大切に育てた会社を自分の子供や血縁者に託せるのは本望だと思います。
また、創業者が持つ理念に共感し、長年会社の発展に貢献してきた従業員は、創業者の血縁者が会社を継ぐことに対して比較的好意的であり、従業員の仕事へのモチベーションを維持しやすいこともメリットの一つと言えるでしょう。

3. 親族内承継のデメリット

親族内承継のデメリットは、承継する先が血縁者に限定されるため候補者が少ないことです。唯一の候補者である創業者の一人息子が、経営者としての資質や能力に欠けるというケースも珍しくはありません。また、複数の候補者が存在する場合でも、その中に経営者として相応しい資質と能力を持つ人物が存在するとは限りません。資質や能力に問題がある血縁者が後継者として選ばれた場合、事業承継した途端に経営状態が悪化する可能性もあるため、注意が必要です。
候補者が事業の引継ぎを強く望む場合でも、経営者としての十分なスキルと経験、心構えを備えるためには、約10年という長い期間が必要と言われています。

②従業員承継

血縁者の中に後継者に相応しい人物が存在しない場合、有能な従業員が後継者として選ばれることもあります。従業員承継の傾向とメリット・デメリットについて説明します。

1.従業員承継は増加傾向

少子化の影響や価値観の変化などに伴い親族内承継が減少する中、親族外の後継者として従業員が選ばれるケースは増えているようです。優秀で信頼できる幹部社員や役員が存在する場合、経営者としても安心して会社を任せることができるでしょう。

2. 従業員承継のメリット

従業員承継のメリットは、現場への影響が少なく、スムーズな引き継ぎが可能なことです。後継者となる従業員は、その会社で長く働いてきた実績があり、元の経営者の方針や業務の進め方等を熟知しています。従業員や取引先との信頼関係も構築できているため、今までどおり円滑に業務が進むことが期待できます。親族内承継のように候補者が血縁者に限定されず、能力や会社への貢献度等を基準に選ばれるため、承継後に経営状態が傾くリスクも少ないと言えるでしょう。
また、前述のように、事業承継税制を用いる場合、従業員承継においても税務上の優遇措置を受けられることも大きなポイントです。

3. 従業員承継のデメリット

事業承継は、企業が新しく生まれ変わる絶好の契機だという考え方もあります。そのような視点から見ると、従業員承継には新たな改革や変化が生じにくく、会社の発展につながらないというデメリットがあります。また、従業員承継の場合、経営者が信頼していた人物が後継者として選ばれますが、その人物が経営者と年齢が近い場合は世代交代につながらず、数年後にまた事業承継を行わなければならないという点もデメリットと言えるでしょう。

さらに、事業承継のために従業員か経営者から株式を買い取る場合は、従業員が多額の資金を用意する必要があるという点もデメリットの一つです。もっとも、経営者が後継者の従業員に経営権だけ承継させ、株式は現経営者が所有したままにするという方法も取られています。

③M&Aによる事業承継

近年、親族や従業員以外の第三者に事業を引き継ぐM&Aによる事業承継が急増しています。M&Aによる事業承継の傾向とメリット・デメリットについて説明します。

1. M&Aによる事業承継は急増中

M&Aによる事業承継は、「会社を誰かに引き継ぎたいけれど、後継者として相応しい人物が見つからず、廃業以外に選択肢がない」という経営者にとっては理想的な解決策となります。政府もM&Aによる事業承継を推奨しており、全国の商工会議所などの認定支援機関に事業引継ぎ支援センターを設置して、事業承継に関する相談やM&Aのマッチング支援なども行っています。そのため、M&Aによる事業承継は中小企業の経営者の間で広く知られるようになり、現在ではかなり普及が進んでいます。

2. M&Aによる事業承継のメリット

M&Aによる事業承継のメリットは、後継者を育成する手間が不要という点です。相手選びさえ間違えなければ、経営者としての資質もスキルも兼ね備えた優秀な人物に会社を託すことができるため、会社の経営状態が不安定になる心配も少なく、従業員の雇用の維持もできます。また、外部の人物が経営を引き継ぐことにより、経営刷新の契機にもなります。M&Aによる事業承継は、単に後継者に会社を引き継ぐという枠を超えて、会社の飛躍的な発展につながる可能性もあるのです。実際、M&Aによる事業承継により大幅に業績を伸ばした会社も少なくありません。

また、株式譲渡によるM&Aが成立すると、その会社の時価総額や経営者のその会社に対する持ち分次第では、経営者は多額の売却金額を得ることができます。会社の清算手続と比較して経営者の手元に残る金額は多くなるという点も経営者にとっては大きなメリットです。

3. M&Aによる事業承継のデメリット

経営者から見たM&Aによる事業承継の最大のデメリットは、「会社を手放してしまった」という心理的な喪失感が大きいことです。特に、様々な苦難を乗り越えて一代で会社を築き上げた創業者の場合は、会社を外部の人間に手放してしまったことに対し、大きな喪失感を感じるかもしれません。
また、経営者の親族や従業員が後継者となる場合と比べて、経営戦略の刷新などの変革が行われる可能性が高く、従業員が変化に対応できない可能性もあります。そもそも事業承継は経営者の事情により行われることで、従業員の希望によるものではありません。事業承継により経営者が交代し、会社の経営方針や業務の進め方などにも変化が起きると、それまでの経営方針や企業文化に慣れていて変化を好まない従業員は不満を募らせることもあります。
さらに、適切なM&A先を見つけるのにも時間とコストがかかる点も、デメリットの一つです。

事業承継を成功させるためのポイントと注意点

事業承継を成功させるためには、十分な準備期間を確保して、経営者自身が積極的に準備を進めることが大切です。目の前の課題に取り組むことに一生懸命で、事業承継のことは後回しにしてしまう経営者の方も多いようです。しかし、遅かれ早かれ、事業承継はいつか必ず起こることであり、先送りにすることは何のメリットもありません。経営者自身はまだまだ現役で働けると思っていても、健康状態や外部環境の急激な変化についていけず、急遽のリタイアを余儀なくされる可能性もあるのです。
従業員や家族の将来のためにも、自身が健康なうちから事業承継の準備を始めることが望ましいでしょう。親族や従業員の中に後継者候補がいる場合は、早いうちから経営者としてのスキルを習得できるような教育を行いましょう。

また、親族や従業員の中に後継者候補がいない場合は、M&Aによる事業承継を検討すると良いでしょう。業績が好調な時期に会社の売却の準備を進めることにより、絶好のタイミングを逃さず、理想的な相手に良い条件で会社を売却できる可能性が高まります。また、時間に余裕があれば、よりよい売却先を探すことも可能です。最近では50代からM&Aの準備を始めて、最適なタイミングで会社を売却したいという経営者も増えています。

まとめ

今回は、事業承継の概要、中小企業における後継者問題、事業承継税制、親族承継・従業員承継・M&Aによる事業承継の最近の傾向やメリット・デメリット、事業承継を成功させるためのポイントなどについて解説しました。

いつ、誰に、どのように会社を引き継ぐかという問題は、会社の将来を左右する非常に重要な課題です。ベストな選択をするためには、経営者自らがイニシアチブを取り、事業承継に関する専門知識とサポートの実績を持つ専門家に相談しながら進めることをおすすめします。特に、事業承継税制の適用要件はかなり複雑で、法改正も頻繁に行われているため注意が必要です。

我々東京スタートアップ法律事務所は、法律・会計・経営のプロとして、各企業の状況や方針に合わせた事業承継について多角的なアドバイスを行っております。事業承継についてお悩みの方はお気軽にご相談ください。

弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。