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弁護士 後藤 亜由夢

M&Aの手順・会社売却の基本的な進め方、必要な準備作業、成功のためのポイントは?

従来は、M&A(合併・買収)といえば大企業が行うものというイメージが強かったですが、最近は中小企業が後継者問題の解決を目的として行われるケースも増えています。

M&Aを検討したいけれど、どのような手順で進めればよいのかわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、中小企業が自社を売却する際のM&Aの基本的な進め方や注意すべきポイントを時系列で解説します。

M&Aによる会社売却の事前準備

M&Aによる会社の売却を成功とは、自社の将来的な発展の基盤構築を意味します。M&A成功の秘訣は事前準備をしっかり行うことです。M&Aを成功させるために必要な準備について、具体的に説明します。

1.SWOT分析で客観的に自社を分析

M&Aを成功させるためには、自社を客観的に分析することが不可欠です。法律論からは話は離れますが、経営分析としてさまざまな分析手法があります。一般的に有効と言われているのがSWOT分析です。SWOT分析は、自社を取り巻く外部環境と内部環境を客観的に分析することにより、戦略策定や事業上の課題抽出などを行うためのフレームワークです。
M&Aを成功させるポイントの一つは、シナジー効果(相乗効果)が期待できるような企業をM&Aの相手方(買主)として選定することです。SWOT分析により、自社の弱みや強みを可視化することにより、シナジー効果が期待できる相手方を選定しやすくなるのです。

SWOT分析では、以下の4点について分析を行います。

  • Strength:自社の強み
    内部環境として、自社が持つ強みを分析します。自社製品のブランド力、販売力、顧客サポート力、自社の人材が持つ技術力や経験値など、多角的な視点から自社の強みを全て洗い出しましょう。自社の強みを客観的に分析するためには、顧客や取引先からの声なども参考にするとよいでしょう。
  • Weakness:自社の弱み
    自社の弱み、不得意としている点などを分析します。競合他社と比較して不足していると思われる点なども洗い出しましょう。M&Aを成功させるためには、自社の弱みや抱えている課題を隠さずに提示することも大切なポイントとなります。
  • Opportunity:成長の機会
    ビジネスチャンスと捉えられるような外部の市場環境の変化や業界の動きなどを分析します。市場の成長性なども含めた自社を取り巻く外部環境を広い視野で見渡すことがポイントです。
  • Threat:脅威
    自社にとって脅威となる可能性のある外部環境の変化を分析します。競合他社の動きや法規制の整備などもチェックしましょう。

2.中長期計画書の作成

次に、SWOT分析で洗い出した自社の強みと弱み、成長の機会と脅威を元に中長期計画を立案します。中長期計画とは、3~5年間の間に自社が行うべきアクションプランを具体的に示した計画のことです。中期計画書には、SWOT分析で明確になった自社の弱みや外部的な脅威を克服するために講じる対策、自社の強みをさらに伸ばすために実施する施策などを具体的に記載します。
計画を実行する際になんらかの制約があり、実現不可能となる場合もあるため、複数のプランを立案することが望ましいでしょう。また、根拠となるデータや資料も添付しておきましょう。

仲介機関の選定

SWOT分析と中期計画書の作成が完了したら、次にM&Aの仲介機関を選定します。M&Aには、最適なスキームの選定、法律・税務上の問題等、専門的な知識に基づいた判断が必要です。専門的なスキルと豊富な実績を持つ専門家に相談しながら進めることが大切ですが、ここではM&Aの初期段階で登場する仲介業者について解説します。

1.信頼できる業者を選定

M&Aの専門業者には、主に2種類のタイプがあります。

  • 売り手側と買い手側の企業を中立な立場で仲介する仲介業者
  • 売り手側か買い手側のどちらか一方を支援するファイナンシャル・アドバイザー(FA)

中小企業のM&Aの場合、FAよりも仲介業者を選んだほうがスムーズにM&Aが成立しやすいと言われています。FAの場合は双方が利益を主張するため、交渉が長引く傾向がありますが、中立な仲介業者を選定することで、交渉がまとまりやすくなるためです。

仲介業者を選定する際は、専門的なスキルと実績を十分に持っているかを確認することも重要ですが、自社の方針や思いを丁寧に汲み取り、親身になって検討してくれるかを確認することも大切です。M&Aを専門とする業者の中には、とにかく高額での売却を最優先とする業者も存在するので注意が必要です。仲介業者の報酬は、基本的にM&Aにおける会社売却額に比例するからです。

信頼できる専門家を見極めるためには、実際に、M&Aの仲介業者と面談し、M&Aに関する疑問点や自社の業界のM&Aの現状などについて質問してみることをおすすめします。実際に対面で話をして、M&Aコンサルタントとして十分な業界に対する情報を持っているのか、数字には現れない自社の価値についても親身になって正しく評価してくれるか、企業価値を高めるために最適なスキームを提案してもらえるのか等をしっかり見極めることが大切です。

2.仲介契約の締結

M&Aに関する業務を依頼する仲介業者を決定したら、その業者と仲介契約を締結します。仲介契約書には報酬について明記されていますので、報酬について明確に理解できるまで説明してもらいましょう。また、専任契約にするかについては慎重な判断が必要です。M&Aでは、仲介契約をはじめ、プロセスごとに契約書を締結します。M&Aは情報漏洩等さまざまなリスクを伴うので、トラブルを越さないためにも、契約書を締結する際は契約書の内容をしっかり理解することが大切です。

M&Aの際に締結する契約書の目的や注意点については、こちらの記事を参考にしていただければと思います。

買い手候補の選定

M&A仲介業者やFAなどの紹介の中から、買い手側となる企業の候補を選定します。買い手側の企業を選定する際の流れと注意点について説明します。

(1) ノンネームシート(NNS)の作成

買い手側の企業を選定するための最初の作業は、売り手側企業のノンネームシートの作成です。ノンネームシートというのは、売り手側企業の企業名を伏せて、売り手側企業の業務内容、地域、社員数、売上高、譲渡理由、特徴などを簡潔に記載した資料です。まだ、買い手側が本格的に検討するかわからない状態なので、秘密保持の観点から企業名を伏せた匿名の資料として買い手候補の企業に渡されます。この時点では、買い手側と売り手側はまだ秘密保持契約を締結していないからです。

ノンネームシートを作成する際は、特徴の欄に具体的な情報を含めすぎると企業名が特定されてしまう可能性があるため注意が必要です。逆に情報が少なすぎると、買い手側から関心を持ってもらえないため、企業名が特定されないように配慮しながら、適切な情報を盛り込むことも大切です。
ノンネームシートに興味を持った買い手側の候補が現れた際は、その会社が自社に興味を持った理由をアドバイザーに確認しましょう。その理由に納得できた場合、次のステップに進みます。

(2) 秘密保持契約(NDA)の締結

次のステップは買い手側の候補となる企業の経営者との顔合わせとなりますが、候補の企業に対して売り手側の企業名を開示する際には秘密保持契約を締結する必要があります。秘密保持契約は、M&Aの交渉段階で情報が外部に漏れることを防ぐために重要な役割を果たします。交渉段階で情報が漏れてしまうと、「あの会社は身売りしなければならないほど業績が悪化している」など、根も葉もない噂が広まり、M&Aがうまくいかないだけではなく、業績悪化につながるリスクもあるからです。

(3) 企業概要書の作成

企業概要書は、買い手側の企業が売り手側の企業を正しく評価するために大切な資料です。通常は、M&Aアドバイザーが作成しますが、概要書を作成するための資料は売り手側の企業が用意します。企業概要書は、通常は買い手と売り手が秘密保持契約書(NDA)を締結した後に交付されます。
企業概要書には決められたフォーマットは特にありませんが、以下のような内容が含まれる場合があるようです。

ア 業界・市場の動向

業界や市場の動向は、SWOT分析では外部要因であるOpportunity(成長の機会)とThreat(脅威)に該当します。市場規模の推移、競合他社の状況、自社の業界内の立ち位置などの情報も含めるとよいです。また、今後の業界の動向に影響を与えそうな法規制等の予定がある場合は、わかる限りでその情報も記載します。

イ 企業の沿革

企業が今まで歩んできた歴史、市場や業界の変化、自社が実施した事業戦略やその結果等を記載します。客観的なデータとして、過去10年分程度の業績の推移も含めるとよいでしょう。

ウ 事業の概要・強みと弱み

自社の事業の内容、自社の強みと弱み(問題点)を記載します。SWOT分析の内部要因であるStrength(自社の強み)とWeakness(自社の弱み)に該当する部分です。自社内で実施したSWOT分析では、自社の強みが十分に洗い出せていない場合も多いので、仲介業者のアドバイザーから客観的なアドバイスを受けることをおすすめします。経験豊富なアドバイザーなら、買い手側にとって魅力的な自社の強みを発見してくれる可能性も高いです。

エ 中期事業計画

業界の動向や自社の強みと弱みを踏まえた上で立案した3~5年程度の中期事業計画を記載します。自社の弱みや問題点の克服方法、競合他社との差別化戦略なども具体的に盛り込むとよいでしょう。また、計画を実行するための組織体制についても記載しましょう。

オ M&Aの目的

自社がM&Aを行う目的を記載します。事業承継、コスト削減、販路の拡大、海外進出等、M&Aにより実現したいことを具体的に記載します。目的を明記することにより、自社にとって理想的な買い手企業の候補を選びやすくなります。

(4) 経営者同士の面談

秘密保持契約を締結し、企業概要書を開示した後は、本格的な検討段階に入ります。最初に、買い手側と売り手側の企業の経営者が直接顔を合わせて、面談を行います。ここにFAやM&A仲介業者が同席することも多いです。面談の主な目的は、直接話をすることにより、お互いの価値観や経営理念を共有できるかを判断することです。面談の際は、相手の人間性もしっかりチェックし、信頼できる人物かを慎重に見極めましょう。誠実さが感じられない等、問題がある場合は時間を無駄にしないためにも早めに見切りをつけることも大切です。

条件の交渉と調整

経営者同士の面談を終えて、買い手候補の企業が信頼できると判断した場合、M&Aの条件の交渉に入ります。条件を交渉する際は、社員の雇用確保や処遇などの細かい条件についてもしっかり確認しましょう。
アドバイザーから、適切なスキームについての提案もあります。M&Aのスキームは専門的な内容となるため、わかりづらい点もあるかと思います。理解できない点がある場合は遠慮なく質問するようにしましょう。また、売却予定価格や社員の処遇等の条件について納得できない点がある場合、アドバイザーに伝えて相手側と交渉してもらうことも大切なポイントです。

基本合意書の締結

M&Aの条件交渉が完了したら、基本合意書を締結します。基本合意書は最終契約に向けて、買い手側と売り手側の認識を一致させる役割を果たします。基本合意書には、現時点でお互いが合意した売買予定価格を明記しておくことが大切です。売買予定価格を明記することにより、次のステップであるデューデリジェンスで問題が発覚した場合でも、合意した金額を元に交渉することが可能となるからです。

とはいえ、まだデューデリジェンスを行う前であり、今後スキームや売買価格などは変化する可能性がありますし、そもそもM&Aが不成立になる可能性もあります。したがって、基本合意書の多くの条項には法的拘束力を持たせず、紳士協定のような形で締結されるのが一般的です。法的拘束力が認められる条項は、独占交渉権などの一部の条項に限ることが多いです。なお、後々の法的拘束力があるか否かの紛争を防止するため、基本合意書のどの条項が法的拘束力を有するかを定めておく必要があります。

デューデリジェンス(DD)

基本合意書を締結した後、デューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスは、M&Aを行うにあたり、買い手側の企業が、売り手側の企業の財務状況や法務面に問題がないか確認するための調査手続です。一般的に、買い手側の企業から派遣された弁護士や公認会計士等の専門家が行います。弁護士が行う法務デューデリジェンスでは、主として、株式・株主、組織、親会社・関連会社、資産・知的財産、取引契約、人事労務、法令遵守、紛争訴訟の分野において、特に重大な法的問題の有無の確認・調査を行います。公認会計士等が行う財務デューデリジェンスでは、主として売り手側の企業の会計処理の実態、法人税の納税状況、売掛金の回収状況、在庫の商品価値、簿外債務等の調査・確認を行います。デューデリジェンスで重大な問題が発覚した場合は、基本合意書の内容の見直しが行われる場合もあります。最悪の場合、M&Aが不成立になるケースもあり得ます。デューデリジェンスで契約破棄になると、デューデリジェンスにかかる費用や時間が無駄になりますし、相手探しからやり直さなければなりません。そのような事態を避けるためにも、買い手候補と顔合わせをする段階から、自社の弱みや問題点を包み隠さずに伝えることが大切です。

バリュエーション(企業評価の算定)

M &Aで会社を売却する際、売り手側が売買価格を提示して、その価格を基準に買い手側と交渉するという流れで進めることが通常です。非上場会社の場合、証券取引所による客観的な株価が存在しないことから、M&Aによる売買価格算定のためには、売り手の会社の企業価値を評価する必要があります。このことをバリュエーションといいます。
バリュエーションによる企業価値評価や、より高く売却するための秘訣等についてはこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

会社売却の試算方法・相場より高く売却する秘訣と注意点を解説

最終契約

デューデリジェンスが無事完了した後は最終契約の締結に進みます。株式譲渡の場合、売り手側の企業が買い手側の企業に株式を譲渡し、買い手側企業が支払いを完了するとM&Aが成立します。手続自体はここで完了しますが、M&A成立時点が双方の企業にとって新たなスタートとなるといえます。

従業員や取引先への開示

最終契約の締結の完了後は、従業員や取引先に対してM&Aが成立したことを速やかに報告します。従業員は、経営者が心配している以上にM&Aについて不安に感じるものなので、従業員の気持ちを配慮して、十分な説明を行うことができるよう事前準備をしっかり行いましょう。全従業員への公表時は、買い手側と売り手側の経営者が同席し、M&Aの目的、今後の方針、雇用の継続等について、明確に説明しましょう。従業員が安心して、将来の企業の発展を思い描けるように配慮することが大切です。
取引先への報告についても、直接訪問か書面の送付か等の適切な手段を決定し、迅速に進めましょう。

PMI(経営統合作業)

M&A成立後は、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる業務プロセスや企業文化の統合作業を行います。PMIはM&Aを本当の意味で成功に導き、企業の発展につなげるために非常に重要な作業です。従業員のモチベーションを維持するためには、業務のプロセスだけではなく、企業文化の違いをどのように調整していくかという点も大切です。明確な目標設定を行い、目標に沿ったスケジュールを立てて進めていくようにしましょう。

まとめ

今回は、中小企業が会社を売却する際のM&Aの基本的な進め方や注意すべきポイントを時系列で解説しました。

M&Aは企業や従業員の将来を大きく左右する一大イベントなので、信頼できる専門家に相談しながら慎重に進めることが大切です。

我々東京スタートアップ法律事務所には、M&Aに関する豊富な知識と実績を持つ弁護士・公認会計士が在籍し、法律・会計・経営のプロとして、各企業の状況や方針に合わせたM&Aについて多角的なアドバイスも行っております。M&Aをご検討中の方はぜひお気軽にご相談ください。

弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。