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投稿日: 更新日: 弁護士 後藤 亜由夢

M&Aの契約書の注意点・必要な契約書の種類と雛形を利用する場合の注意点を解説

最近は政府が事業承継型M&Aを推進していることもあり、大手企業だけではなく中小企業でもM&A(合併・買収)が行われるケースが増えています。M&Aには秘密情報漏洩リスクや法的なリスクが内在しているため、契約書はトラブルを未然に防ぐために重要な役割を果たします。

M&Aではプロセスごとに契約書が登場しますが、内容を確認する際、具体的にどのような点に注意すればよいかわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、今回は、M&Aの際に必要な契約書の種類や注意すべきポイント、雛形を利用する際の注意点などについて解説します。

M&Aの際に必要な契約書の種類

M&Aの際に必要な契約書の種類は選択するスキーム等によっても異なりますが、基本的に必要となるのは以下の4種類です。

  • 提携仲介契約書(アドバイザリー契約書)
  • 秘密保持契約書
  • 基本合意書
  • 最終契約書

まずは上記4種類の契約書について、契約書の役割や注意点について詳しく説明したいと思います。

提携仲介契約書(アドバイザリー契約書)

提携仲介契約は、M&Aの仲介業者との間で締結する契約です。日本の中小企業のM&Aでは、売り手側と買い手側の双方の企業を仲介する仲介方式を利用されるケースが多いです。売り手側か買い手側のどちらか一方を支援するファイナンシャル・アドバイザー(FA)が利用されることもあります。その場合、仲介契約ではなく、FA契約、アドバイザリー契約、アド契約などと呼ばれることが多いようです。

1.提携仲介契約の目的と内容

提携仲介契約書の目的は、業務の範囲、着手金や成功報酬などの報酬、秘密保持などを明確に定めることにより、M&A仲介に関するトラブルを未然に防ぐことが目的です。提携仲介契約の締結後は、企業と仲介業者が二人三脚でM&Aを進めることになります。

2.提携仲介契約の注意点

①報酬についてしっかり確認すること

提携仲介契約書には、着手金や成功報酬などの報酬について細かく定められています。料金システムは、業者によって大きく異なります。計算方法が複雑な場合も多いので、内容をしっかり確認することが大切です。特に、毎月発生するリテイナーフィーについては注意が必要です。リテイナーフィーとは、M&Aアドバイザリー会社やM&A仲介会社に支払う月額報酬(定額顧問料)のことです。
疑問点や不明点がある場合は必ず質問をして、理解できるまで説明を受けましょう。質問した際に明瞭な説明を受けられなかった場合、提携仲介契約の締結自体を再検討した方がよいかもしれません。

②専任条項は慎重に検討すること

提携仲介契約書には、契約したM&A仲介会社のみが独占してM&Aを進める旨を規定した専任条項(排他的条項)が含まれている場合が多いです。この場合、一定の期間内は他のM&A仲介会社に相談することは原則として禁止されるので注意が必要です。複数のM&A仲介会社に相談しながら進めたい場合は、契約書からこの条項を外してもらうとよいでしょう。

複数のM&A仲介会社に相談するメリットは、多くの情報が得られるということです。特に自社を売却したいと考える経営者にとっては、買い手候補となる企業が見つかる可能性が高くなり、よりよいM&Aを行える可能性が高まるといえるでしょう。ただし、複数の業者と契約すると、情報漏洩のリスクが高くなるというデメリットもあります。
専任契約を結ぶメリットとしては、M&Aアドバイザーと信頼関係を構築し、質の良いサポートを提供してもらえる可能性が高まるということです。信頼できるM&Aアドバイザーが見つかった場合は専任契約を検討してもよいでしょう。

③途中解約の条項にも要注意

途中解約が認められるかという点も必ず確認しましょう。特に自社の売却を検討している場合に特定のM&Aアドバイザーと専任契約をしてしまうと、買い手の候補が全く現れないまま時間ばかりが過ぎていくというケースもあります。したがって、ある程度の期間が経過しても買い手候補が見つからない場合は途中で解約できることが望ましいです。
また、途中解約は可能でも、途中解約時には違約金が発生すると規定されているケースもあるので、解約時の違約金の有無についても確認が必要です。

秘密保持契約書

秘密保持契約は、①売り手側及び買い手側がM&Aアドバイザー(仲介業者)と締結するもの②売り手側(または対象会社)と買い手側が締結するものがあります。
いずれも、相手方から知り得た情報を第三者に開示しないという内容の契約です。機密保持契約、守秘義務契約、NDA(Non-Disclosure Agreement)などと呼ばれることもあります。

1.M&Aにおける秘密保持契約の役割

秘密保持契約では、秘密情報の定義、情報漏洩が起きた場合の損害賠償責任等を明確に規定します。秘密保持契約は業務委託契約等の通常の商契約締結の際に日常的に交わされる契約ですが、M&Aの場合はより重要な役割を果たします。なぜなら、M&Aにおいて売り手側が買い手側に提供する対象会社の情報は、通常の商取引において提供される情報よりも機密性の高い情報を開示することになり、情報漏洩時のリスクが大きいからです。

2.秘密保持契約の注意点

①抑止効果を重視することが大切

M&Aでは情報漏洩によるリスクが大きいため、秘密保持契約書には、情報漏洩を抑止する効果を持たせるための条項を規定する必要があります。例えば、秘密情報の定義を明確にした上、秘密保持義務に反した場合は損害賠償義務を負う旨、及び可能であれば義務違反時の違約金額を具体的に定める旨などを定めることなどが考えられます。また、M&Aを検討するメンバーが多いほど情報漏洩のリスクは高まりますので、検討メンバーを必要最小限に限定することも大切です。

②契約書郵送時の注意点

M&Aの際の秘密保持契約書を郵送する場合、他の従業員などの目に触れないようにすることや、M&Aの際の秘密保持契約書であるとわからないようにすることが重要です。M&Aを行う旨は、企業の一部のマネジメント層のみしか知らされていないことが多いからです。特に、売り手側の企業にとっては、自社が買収されるということについてネガティブなイメージを持つ従業員が多いため、M&Aが成立する直前まで情報が秘匿されることが多いです。万一、売り手側の企業の従業員が郵送物を開封して、契約書を見てしまった場合、「大変!うちの会社、買収されるんだ!」などと動揺し、従業員や取引先の間で良からぬ噂が広まる可能性もあるため注意が必要です。

基本合意書

基本合意書は、売り手側と買い手側の企業がM&Aの条件について大筋で合意した時点で作成される覚書です。LOI(Letter of Intent)、MOU(Memorandum of Understanding)とも呼ばれています。一部の条項以外は法的拘束力を持たないため、省略される場合もあります。

1.基本合意書の役割と内容

基本合意書は、M&Aのスキーム、買収価格、スケジュールなどの条件がある程度固まった段階で、売り手側と買い手側の認識を一致させる役割を果たします。基本合意書で規定する主な内容は、売却の対象範囲、売却条件、役員や従業員の処遇、M&Aのスキーム(株式譲渡、事業譲渡など)、売却予定価格、デューデリジェンスへの協力義務、基本合意書の有効期間などです。

2.基本合意書の注意点

①独占交渉権に要注意

基本合意書には通常、独占交渉権の条項が定められています。独占交渉権とは、買い手側の企業が売り手側の企業との交渉を独占的に行う権利のことです。独占交渉権が規定されている場合、売り手側の企業は、より良い条件を提示する買い手候補が現れても交渉できなくなるため注意が必要です。独占交渉権の期間は2ヶ月程度とするのが多いようです。売り手にとってこの期間が長すぎると、M&Aがなかなか成立しない場合、不当に長い期間に渡って特定の買い手に拘束されることになるので注意しましょう。また、複数の買い手候補との条件を比較しながら、より良い条件の企業を探したいという場合は、独占交渉権ではなく優先交渉権としてもらうとよいでしょう。優先交渉権は他の企業よりも優先して交渉を進められる権利ですが、独占交渉権とは違い、複数の会社に対して与えることが可能です。

②売買予定価格に関する注意点

基本合意書には売却予定価格が記載されるのが通常ですが、基本合意書に記載された売却予定価格は事実上の上限価格となる場合が多いので慎重に設定しましょう。
とはいえ、まだデューデリジェンスを行う前であり、今後スキームや売買価格などは変化する可能性がありますし、そもそもM&Aが不成立になる可能性もあります。したがって、売買予定価格をはじめとした基本合意書の多くの条項には法的拘束力を持たせず、紳士協定のような形で締結されるのが一般的です。法的拘束力が認められる条項は、独占交渉権などの一部の条項に限ることが多いです。なお、後々の法的拘束力があるか否かの紛争を防止するため、基本合意書のどの条項が法的拘束力を有するかを定めておく必要があります。
基本合意書を交わした後は、買い手側が売り手側企業の財務、税務、法務などを監査するデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスで問題が発覚した場合、売却予定価格を元に調整が行われ、売却価格が下がる可能性やM&A自体を取りやめる可能性があります。

最終契約書

M&Aが成立した際に締結する契約書のことを最終契約書(DA: Definitive Agreement)といいます。最終契約書の種類はM&Aのスキームによって異なります。例えば、株式譲渡の場合は株式譲渡契約書、事業譲渡の場合は事業譲渡契約書、吸収合併の場合は吸収合併契約書となります。

1.最終契約書の内容と法的拘束力

最終契約書は基本的には基本合意書を元に作成しますが、デューデリジェンスで問題が発覚した場合は条件等が調整されます。最終契約書には、基本合意書で規定した内容以外に、
クロージング前後の制約事項、表明保証、賠償及び保証等が盛り込まれます。
基本合意書と違い、最終契約書は法的拘束力を持ちます。つまり、最終契約書で規定した条項に違反した場合、契約の解除や損害賠償請求が可能となります。

2.表明保証の注意点

最終契約書には、売り手側の表明保証義務について定められます。表明保証とは、売り手が買い手に対し、最終契約の締結日や譲渡日等において、対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証するものです。表明保証条項は、M&Aにおいて非常に重要な規定であり、後にこの条項違反に基づき紛争になることも多く見られるため、注意が必要です。
また、表明保証事項は損害賠償条項とセットで規定されています。実務的にも、買い手が売り手に対し、表明保証違反に基づき損賠賠償請求を行うケースが散見されます。

雛形を利用する際の注意点

M&Aで締結する契約書は、ネット上で検索すると雛形が見つかる場合も多いですが、雛形を利用する際は注意が必要です。
特に最終契約書には、両社間で決定した事項を漏れなく盛り込む必要があります。雛形を流用した場合、内容に抜け漏れが発生することが多いので、慎重に内容を確認しましょう。M&Aでは、次のプロセスに進むごとに契約書や覚書が交わされます。契約書には難解な文言が並んでいるため、全ての内容を確認するのは面倒に思われるかもしれません。しかし、M&Aには様々なリスクが内在しているので、契約書を軽視してはいけません。契約書に対する認識の甘さのせいで、後から損害賠償を請求されるなどの重大なトラブルにつながる可能性もあるのです。

M&Aの契約書に関する相談先

M&Aの契約書の作成や確認は通常、M&A仲介業者がサポートしてくれます。ただし、M&A仲介業者の中には、弁護士が在籍していない場合もあり、法律の専門知識が不足している場合もあるため注意が必要です。
顧問弁護士がいる場合は、顧問弁護士に契約書の内容を確認してもらうとよいでしょう。ただし、顧問弁護士がM&Aに精通しているとは限らないので、M&Aに関する専門知識やサポートの実績があるか確認しておきましょう。M&Aに関する知識が不足していると、重要な点を見落とす可能性もあるからです。

まとめ

今回は、M&Aの際に必要な契約書の種類や注意すべきポイント、雛形を利用する際の注意点などについて解説しました。

M&Aの成功と成立後のトラブル防止のために契約書は重要な役割を果たしますので、契約書のチェックは信頼できる専門家のアドバイスを受けながら、入念に行うことが望ましいでしょう。

我々東京スタートアップ法律事務所では、M&Aの契約書のチェックはもちろん、法律・会計・経営のプロとして、各企業の状況や方針に合わせたM&Aについて総合的なサポートを行っております。M&Aに関して不安なことや相談したいことがあるという方はぜひお気軽にご連絡ください。

弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。