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代表弁護士 中川 浩秀

キャッシュバックと景品表示法・実施前に知っておきたい基礎知識

「キャッシュバック」は、その名の通り現金が戻ってくるというお得感が魅力で、単純な値引きよりもインパクトがあるため、顧客獲得のための有効な手段の一つとして知られています。

キャッシュバックキャンペーンなどを企画する際、注意が必要なのが景品表示法による規制です。

景品表示法の内容をよく知らずに、「この程度なら大丈夫だろう」という甘い考えで違反を犯して行政処分を受けているケースもありますので、キャンペーンなどを企画する際は景品表示法のポイントとなる部分をしっかり理解しておく必要があります。

この記事では、キャッシュバックキャンペーンを実施する際に最低限押さえておきたい景品表示法の規制内容やキャッシュバックの限度額などについて解説します。

値引きと認められる場合は景品規制の対象外

1. 景品表示法の目的

景品表示法(正式名称:「不当景品類及び不当表示防止法」、通称:「景表法」)は販売促進のための過剰な景品類の提供と消費者を惑わすおそれのある不当表示を規制する法律で、1962年に制定されました。

景品表示法の目的は、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する可能性のある企業の販促活動を制限・禁止することにより消費者の利益を保護することです。

景品表示法が誕生した1960年代は高度経済成長期で、次々と新製品が発売されていました。

競合他社との競争に勝って売上を伸ばすための販売促進キャンペーンや景品などの提供も過熱化し、消費者を惑わすような過度な景品や表記も横行し、問題となりました。

当時、消費者を保護する法律として独占禁止法が存在しましたが、独占禁止法による規制だけでは不十分だという声があがり、過度な景品類の提供と不当な表示を規制する景品表示法が制定されたというわけです。

2. 規制対象となる景品類の定義

景品表示法の規制対象となる「景品類」は同法の第2条3項で以下のように定義されています。

この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

「内閣総理大臣が指定するもの」とは以下のとおりです。

・物品及び土地、建物その他の工作物
・金銭、金券、預金証書、当選金付き証票及び公社債、株券、商品券その他の有価証券
・きょう応(映画、演劇、スポーツ、旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)
・便益、労務その他の役務

引用元:「景品に関するQ&A」(消費者庁公式サイト)

3. 値引きに該当する場合は規制対象外

キャッシュバックは「内閣総理大臣が指定するもの」の中の金銭に該当しそうですが、正常な商慣習に照らして値引きと認められる経済上の利益は景品表示法の規制の対象から外されています。

消費者庁が公開している「景品に関するQ&A」には具体的な事例に関する質問と回答が掲載されていて、キャッシュバックに関しては以下のように記載されています。

取引通念上妥当と認められる基準に従い、支払った代金の割戻しを行うことは、値引と認められる経済上の利益に該当し、景品規制の適用対象とはなりません。

引用元:「景品に関するQ&A」(消費者庁公式サイト)

つまり、購入金額の数パーセントに相当する金額をキャッシュバックするなど、実質的な経済上の利益が値引きと変わらない場合、景品表示法の規制は受けないことになります。

現金以外のキャッシュバックの場合

キャッシュバックキャンペーンで、現金の代わりに商品券やクオカードなどの金券をプレゼントする場合はどのような扱いになるのでしょうか。

「景品に関するQ&A」によると、同じ商品を指定された数量以上購入した方に無料で同じ商品をプレゼントする場合などは、値引きと同等の経済上の利益に該当するため、景品表示法の対象にはならないとのことです。

例えば、同じ価格帯のキャンペーン対象賞品を3つ以上購入した方を対象に、キャンペーン対象賞品の中から好きな賞品を無料でプレゼントするなどのケースです。

つまり、現金以外でも、値引きと同じ経済上の利益と認められる場合は景品表示法の規制を受けることはありません。

商品券、クオカード、図書カード、お食事券なども同様に、値引きと同等の経済上の利益と認められる場合は景品表示法の規制対象外となります。

総付景品に該当するケース

ただし、キャッシュバックキャンペーンでも景品表示法の規制対象となるケースがあるので注意が必要です。

例えば、特定期間中に指定された賞品を購入した方を対象として、キャッシュバックか賞品プレゼントのどちらか好きな方を選べるキャンペーンを実施した場合などです。

キャッシュバックだけではなく、非売品のオリジナルグッズなどの魅力的な賞品のプレゼントのどちらか好きな方を選べるキャンペーンは、キャンペーン企画のマンネリ化を防ぐためにも効果的です。

しかし、同一のキャンペーン内で、キャッシュバックか賞品か自由に選択できる場合は、値引きと同等の経済上の利益とは認められません

賞品やサービスの購入者全員を対象とした場合は景品表示法の規制対象である総付景品(通称、ベタ付け景品)に該当します。

クローズド懸賞に該当するケース

また、購入者全員を対象とした場合だけではなく、抽選に当たった人だけを対象とした場合も景品表示法の規制対象となります。

くじや抽選などに当たった人のみを対象としたキャッシュバックキャンペーンは、一般懸賞(通称、クローズド懸賞)に該当します。

例えば、「○周年記念全額キャッシュバックキャンペーン」とか「累計売上○円達成記念お客様感謝キャンペーン」などと称して、購入者の中から抽選で○名様に全額キャッシュバックを行うなどのキャンペーンは一般懸賞に該当し、景品表示法の規制を受けます。

キャッシュバックの限度額

景品表示法の規制対象となる場合、キャッシュバックの金額には限度額が設けられています。

総付景品と一般懸賞の限度額について説明します。

1. 総付景品の限度額

懸賞などを行わずに提供される総付景品の場合の限度額は以下のとおりです。

取引価額 限度額
1,000円未満 一律200円
1,000円以上 取引価額の10分の2

キャッシュバックか賞品プレゼントのどちらかを選べるキャンペーンなどを実施する場合は、こちらの限度額を超えないよう注意しましょう。

2. 一般懸賞の限度額

懸賞などによって提供される一般懸賞の場合の限度額は以下のとおりです。

取引価額 限度額 総額
5,000円未満 取引価額の20倍 懸賞に係る売上予定総額の2%
5,000円以上 10万円

くじや抽選などに当選した人のみを対象としたキャッシュバックキャンペーンの場合、10万円という上限を超えないよう注意しましょう。

また総額に対する限度額も設けられているので、こちらもオーバーしないように気をつける必要があります。

一般懸賞、総付景品ともに、購入額に関わらずに購入者を対象として景品類を提供する場合の取引価額は原則100円とみなされます。

キャンペーン期間の延長にも要注意

限度額だけではなくキャンペーン期間の設定にも注意が必要です。

キャッシュバックキャンペーンなどはほとんどの場合、期間限定で行いますが、実際はキャンペーン期間を過ぎても同じ内容のキャッシュバックが行われていたり、キャンペーン期間が延長されたりするケースも散見されます。

キャンペーン期間中は売上が好調なのに、キャンペーンが終了した途端売上が下がってしまうケースはよくあることで、キャンペーン期間を延長して売上をキープしたいと考えるのは自然なことかもしれません。

しかし、顧客側の立場から見ると、

「先月末までの期間限定って書いてあったから、先月無理して買ったのに、今月も同じキャンペーンやってるんだ」

「この会社は期間限定と謳っておきながら、毎月同じキャンペーンしてる」

などと、不信感を感じてしまいます。

このように期間限定と謳っておきながら、キャンペーン期間を延長したり、同じ内容のキャンペーンを毎月繰り返したりするケースは実際よくあることですが、有利誤認表示とみなされて景品表示法違反となるので企業側は十分に注意する必要があります。

有利誤認表示とは、賞品やサービスの価格や取引条件に関して著しく有利だと誤認される可能性のある不当表示のことです。

期間限定のキャッシュバックキャンペーンのように、消費者に「今すぐに買わないと損するかも」と思わせておいて、実態は記載されていた期間終了後も同じ条件で購入できるケースは有利誤認表示に該当します。

また、実際は数量無制限で販売している商品やサービスについて、「先着10名様限定」などと記載した場合も同様です。

違法なキャッシュバックに対する罰則

1. 改正により導入された課徴金制度

景品表示法に違反した場合には、措置命令または課徴金納付命令などの行政処分を受ける場合があります。

以前は不当表示を行った事業者に対して、不当表示をやめさせるなどの措置を命ずる措置命令だけでしたが、2014年6月と11月に景品表示法の改正が行われ、11月の改正では課徴金制度が導入されました。

この課徴金制度の導入により罰則が強化され、消費者を欺くような不当表示が事前に抑止される効果が期待されています。

改正のきっかけとなったのは、2013年度にホテルやレストランでメニューに表示されているのとは異なる食材を使用した料理が提供されていることが次々と発覚して社会問題に発展した食品偽装問題でした。

2. 消費者からの情報提供がきっかけとなる行政処分

消費者庁は誰もがアクセスしやすい相談窓口として消費者ホットラインを設けていて、一般消費者から消費生活全般に関する苦情や問い合わせを受け付けています。

実際、消費者ホットラインに寄せられる相談や情報提供をきっかけに、消費者庁が企業に対して景品表示法違反の調査を行うケースは多いようです。

消費者からの情報提供をもとに消費者庁の調査を受けて違法性が認められた場合、措置命令や課徴金納付命令などの行政処分を受けることになります。

行政処分を受けた場合、消費者庁の公式サイトに社名、本社所在地、商品やサービスの名称などが掲載され、違反の内容も公表されます。

違反が公になるとニュースなどで報道されることもあり、顧客からの信頼を失ったり企業のブランドイメージを大きく損ねたりする危険性もあります。

3. 行政処分の事例

行政処分の事例として、通信講座を提供している企業がキャンペーン期間の表示に関する不当表示で措置命令を受けたケースをご紹介します。

この事例では、自社の公式サイトで一定の期間限定で正規受講料から1万円の値引きをするというキャンペーンを実施していました。

しかし、実際は約4年間に渡り、同じキャンペーンをほぼ連続して行っていたのです。

これに対して、消費者庁は、一般消費者に誤認される表示であり、景品表示法に違反する内容であるとして措置命令を出しました。

キャッシュバックを行う際の注意点

景品表示法に違反するようなリスクを犯さずにキャッシュバックキャンペーンを実施するためにはどのような点に注意を払う必要があるのでしょうか。

キャッシュバックキャンペーンを企画する際に最低限押さえておきたい注意点について開設します。

1. 限度額や期間に注意

前述したとおり景品表示法の景品に該当する場合は金額の上限が設けられていますので、上限を超えない範囲で金額の設定を行いましょう。

また、キャンペーン期間についても先程ご紹介したように措置命令が出された事例がありますので、後から期間を延長したり、同じ内容のキャンペーンを連続して行ったりすることがないよう注意が必要です。

連続してキャンペーンを実施したい場合は、キャンペーン期間の不当表示とみなされないためにもキャンペーンの内容を変更するとよいでしょう。

例えば、今月はキャンペーン第1弾としてキャッシュバックキャンペーン、来月は第2弾として抽選で3名様にオリジナルグッズプレゼントキャンペーンなどと内容を変えることにより、景品表示法に違反することなくキャンペーンを実施することが可能です。

キャンペーン期間中は売上が好調だったのに、キャンペーンが終了した次の月は売上が激減するということはよくあることです。

営業部門、マーケティング部門など社内の関連部門でよく話し合って、年間の販売計画と合わせたキャンペーンスケジュールをたてて、共有することが理想的です。

2. 誤解を招くような記載にも要注意

限度額やキャンペーン期間の設定以外にも景品表示法に関して注意しなければいけないポイントはあります。

消費者から誤解される可能性のある表現や虚偽の記載は有利誤認表示とみなされるので、そのような表現がないか確認しましょう。

例えば、発売から1年以上経過した商品について、「新発売記念キャッシュバックキャンペーン」「リリース記念キャンペーン」などと謳うのは虚偽の記載に該当する可能性があります。

ちなみに、化粧品の表示に関する公正競争規約施行規則では、新発売や新商品等を意味する表現は発売後12か月以内しか使用できないとされています。

また、「キャッシュバックキャンペーン」のキャッシュは英語で現金を表す単語なので、「キャッシュバックキャンペーン」と謳っていながら、実際は現金ではなくは商品券やお食事券のプレゼントというのは消費者にとって紛らわしい記載といえます。

実際、「キャッシュバックキャンペーン=現金が受け取れる」というイメージを持っている方も多くいらっしゃいます。

現金以外の金券などでキャッシュバックを行う場合は、「キャッシュバック」という表現は使わずに「500円分のクオカードプレゼント」など、誤解が生じない記載にした方が無難かもしれません。

3. 消費者の観点からチェック

冒頭でも説明しましたが、景品表示法の本来の目的は消費者の利益を保護することです。

そのため、消費者の観点から、記載や内容について分かりづらい点がないか、誤解が生じるような表現がないかなどをチェックすることが大切です。

期間限定キャンペーンの延長などは、企業のマーケティグや販売部門で働いていると「これくらいはいいだろう」と思ってしまいがちですが、自分が顧客だったらどう感じるだろうという視点で考えるように心がけましょう。

ご家族などにお願いして消費者目線でチェックしてもらうのもおすすめです。

まとめ

今回は、キャッシュバックキャンペーンを実施する際に最低限押さえておきたい景品表示法の規制内容やキャッシュバックの限度額などについて解説しました。

知識不足のままうっかり違反を犯してしまった場合でも、「そんなつもりはありませんでした」では通用しません。

キャンペーンを企画する際は、景品表示法違反にならないように社内の関係部門のメンバーでしっかり確認しましょう。

社内の人間だけで確認するのでは不十分だと感じた場合は、景品表示法の事例に詳しい弁護士など法律の専門家に事前に相談するとより安心です。

代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。弁護士法人東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。