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弁護士 高島 宏彰

トライアル雇用活用のポイントと注意点・助成金制度も解説

トライアル雇用は、採用におけるミスマッチの回避や国からの助成金の支給等、企業にとって魅力のある制度ですが、十分に活用されているとは言い難いのが実情です。

トライアル雇用について漠然と知ってはいるけれど、具体的な制度の内容や助成金が支給される要件などについて十分に理解できていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回はトライアル雇用の制度概要、メリット・デメリット、トライアル雇用を利用した事業者に支給されるトライアル雇用助成金等について解説します。

トライアル雇用とは

トライアル雇用とは、短期間(原則3カ月)の試用期間を設けることにより、使用者である事業主と労働者がお互いに適性を見極め、常用雇用契約を締結するか決定することができる制度です。トライアル雇用の利用を希望する事業主がハローワークに求人票を提出し、ハローワークが適当と思われる人を事業主に紹介することによってマッチングが行われます。トライアル雇用は、いわゆるニートやフリーターと呼ばれるような、職業経験、技能、知識等の不足から、安定した就職が困難な求職者や障害者の雇用を促進することを目的としています。

採用において企業が最もリスクを感じるのはミスマッチ、すなわち労働者を採用した後に業務に対する適正のなさや能力不足が判明することです。日本の法規制では、一度人材を雇用すると解雇が非常に困難であるため、ミスマッチは企業の経営者や人事担当者にとって頭の痛い問題です。また、ミスマッチは企業だけではなく求職者にとっても大きなリスクです。

トライアル雇用を利用することにより、3カ月間という短期間に労働者がいわば「お試し」で働くことで、会社と労働者の双方が仕事に対する適性などを判断し、それにより採用におけるミスマッチを回避することが可能になります。

トライアル雇用のメリット

トライアル雇用には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。事業者と労働者、それぞれの立場からみたメリットについて説明します。

1. 事業者にとってのメリット

トライアル雇用を利用する企業にとっての最大のメリットは、労働者の能力や適性、企業文化との適合性などをトライアル期間中に見極めた上で本採用をするか決めることができる点です。正社員の解雇が厳しく制限されている日本の労働法制の下では、一度正社員として雇用してしまうと、後になって適性のなさや能力不足が判明しても容易に解雇することができません。数回の面接のみで従業員を雇用することは会社にとって大きなリスクを伴い、それゆえに正社員としての雇用になかなか踏み切れないという実情があります。このように採用におけるミスマッチは会社にとって大きな問題とされています。トライアル雇用ではトライアル雇用後の常用雇用は義務ではなく、事業主はトライアル期間中に労働者の人柄や働きぶりを見てから正社員として雇用するかどうか決めることができます。

トライアル雇用のもう一つの魅力は、制度を利用した事業者に助成金(通称「トライアル雇用助成金」が支払われる点です。トライアル雇用を利用する事業主は、一定の要件を満たした場合、トライアル雇用の期間に応じて労働者一人あたり月額最大4万円(最長3か月間)の助成金を受け取ることができます。

また、採用にかかる費用負担の面でもメリットがあります。民間の採用仲介サービスを利用すると、広告出稿費用として数十万円、あるいは採用が決定したときに年収の数十パーセントといった高額な費用がかかります。一方、トライアル雇用は国(厚生労働省)によって推進されている制度で、従業員に支払う給与の他に費用は必要となりません。そのため、通常の採用の場合と比較して、人件費を抑制することができます。

2. 労働者にとってのメリット

労働者にとっても、常用雇用される前に会社で働くことでミスマッチを回避することができるメリットがあります。
また、トライアル雇用に応募する際、その業種における経験は必要とされないため、未経験の分野にも挑戦し、就職の可能性を広げることができるという利点もあります。

トライアル雇用のデメリット

トライアル雇用は、事業者と労働者の双方にメリットがある制度ですが、デメリットもあります。事業者と労働者、それぞれの立場からみたデメリットについて説明します。

1. 事業者にとってのデメリット

事業者からみたトライアル雇用のデメリットは、受け入れ体制の整備が求められるという点です。
トライアル雇用は、どのような労働者でも利用できる制度ではなく、就業経験が少なく、常用雇用での就職が困難なある人に限定されています。したがって、トライアル雇用を活用するためには、社内に未経験の人材に長期的な教育や育成をするための体制整備が必要となります。そのため、トライアル雇用は、人手不足で即戦力となる人材を採用したい会社には向いていません。
また、利用のための手続が煩雑であるという指摘もあります。

2. 労働者にとってのデメリット

労働者にとっては、3カ月のトライアル期間後に採用されるとは限らないという不安定な立場に置かれることがデメリットといえます。常用雇用が見送られた場合、3カ月で解雇という職歴が残ってしまいます。
また、制度を利用できる対象者が、安定した職業に就くことが困難な求職者や障害者に限られている点も労働者にとって制度を利用しづらい一因となっています。

試用期間との違い

トライアル雇用と似た言葉として、「試用期間」があります。トライアル雇用と一般の企業で採用されている試用期間の違いについて説明します。

1. 試用期間とは

試用期間とは、雇用契約や就業規則で規定される試用制度をいいます。期間については会社が自由に決めることが可能で、一般的に、3カ月から6カ月程度の期間が設定されます。試用期間満了後に正式に採用することを本採用といい、会社が一方的に本採用を拒絶することを本採用拒否といいます。試用期間満了後の本採用拒否は、法律上は解雇という扱いになります。

2. 試用期間とトライアル雇用の違い

試用期間は従業員の適性を見極めるための期間という点ではトライアル雇用と同じ目的ですが、制度の性質や法律的な効果は大きく異なります。
まず、トライアル雇用は厚生労働省、すなわち国が管轄する制度であるのに対して、試用期間は個々の企業で独自に採用される制度です。また、期間満了後に常用雇用するかどうか決めることができるトライアル雇用と異なり、試用期間満了後の本採用拒否はあくまで解雇として扱われます。本採用拒否は、通常の解雇の場合と比べると違法とされる条件は若干緩やかになるものの、合理的な理由なく本採用を拒否することはできません。
このように、トライアル雇用は期間満了後の雇用が義務づけられていないため、試用期間と比較して会社にとって利用しやすい制度設計となっています。ただし、試用期間は会社の判断で1か月、3か月、6か月など期間を自由に設定できるのに対し、トライアル雇用は原則3か月と期間が定められているという点には注意が必要です。

トライアル雇用の利用の手続の流れ

次に、事業者がトライアル雇用を利用する際の手続の流れについて説明します。

1.求人票の提出と有期雇用契約の締結

トライアル雇用の利用を希望する会社は、トライアル雇用である旨を記載した求人票をハローワークに提出します。求人票を受け取ったハローワークは、職業経験等を考慮して適切だと考えられる求職者を事業者に紹介します。事業者はその労働者と面談を行い、トライアル雇用を実施するかどうか決定します。トライアル雇用を実施する場合は3カ月の有期雇用契約を締結します。

2.トライアル雇用の実施と計画書の提出

トライアル雇用の開始から2週間以内に、ハローワークに対して「トライアル雇用実施計画書」を提出します。トライアル雇用実施計画書にはトライアル雇用中に講じる措置の内容や、常用雇用に移行するための要件などについて記載します。3か月のトライアル期間が満了し、引き続き常用雇用することを決定したときには、改めて常用雇用契約を締結します。常用雇用を行わない場合には契約期間の満了によりトライアル雇用は終了します。

3.トライアル雇用助成金の申請

トライアル雇用助成金を受給するためには、トライアル雇用期間終了日の翌日から2カ月以内に、「トライアル雇用結果報告書兼トライアル雇用助成金支給申請書」等の必要書類労働局に提出して、受給申請します。

トライアル雇用助成金とは

トライアル雇用助成金について詳しく知りたいという方もいらっしゃるかと思います。トライアル雇用助成金とは、トライアル雇用制度を利用した事業者に対し、対象者の数に応じて支払われる助成金で「一般トライアルコース」と「障害者トライアルコース」の2種類があります。それぞれの対象や支給額について説明します。

1.一般トライアルコース

一般トライアルコースとは、職業経験、技能、知識の不足等から安定した就職が困難な求職者に対してトライアル雇用を行った事業者に助成金が支給されるものです。
具体的には以下のような人が対象となります。

①紹介日時点で、就労経験のない職業に就くことを希望する
②紹介日時点で、ニートやフリーター等で55歳未満である
③紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
④紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
⑤妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いて
いない期間が1年を超えている
⑥就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する(生活保護受給者、母子家庭の母等、父子家庭の父、日雇労働者、季節労働者、中国残留邦人等永住帰国者、ホームレス、住居喪失不安定就労者、生活困窮者)

一般トライアルコースの支給額は、支給対象者一人につき月額最大4万円です。

2.障害者トライアルコース

障害者トライアルコースとは、就職が困難な障害者に対してトライアル雇用を行った事業者に助成金が支給されるものです。
障害者雇用促進法に規定する障害者のうち、以下の要件のいずれかに該当する者が対象となります。

①紹介日において就労の経験のない職業に就くことを希望する者
②紹介日前2年以内に、離職が2回以上または転職が2回以上ある者
③紹介日前において離職している期間が6カ月を超えている者
④重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者

障害者トライアルコースでは、一般トライアルコースの場合と同様に支給対象者一人につき月額4万円が支給されますが、精神障害者を雇用する場合は雇入れから3カ月間は月額8万円、その後の3カ月間は月額4万円で、最長6カ月間支給されます。
また、障害者短時間トライアルコースという制度も設けられています。これは、求職者が週20時間以上の就業を困難とする場合、雇入れ時の週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、障害者の職場適応状況や体調等に合わせて最終的に週20時間以上の就業を目指していく仕組みです。支給額は対象者1人に月額4万円ですが、最大12カ月間に渡り支給を受けることができます。

3.トライアル雇用助成金と併給できる助成金

トライアル雇用助成金と併給できる助成金として、キャリアアップ助成金があります。キャリアアップ助成金とは、非正規雇用労働者のキャリアアップの促進を目的とした助成金で、有期契約から無期雇用や正規雇用へ転換する場合などに助成金が支給されます。
キャリアアップ助成金を受給するために必要な要件としては主に以下の3つがあります。

①転換日までに6カ月以上、継続的に雇用していること
②転換後、6カ月間に渡って継続的に雇用していること
③転換後の6カ月間の賃金が、転換前の6カ月間の賃金と比較して、5%以上アップしていること

トライアル雇用を行い、結果的に正規雇用へ転換することにより、トライアル雇用助成金とキャリアアップ助成金を併給することができます。
ただし、3カ月のトライアル期間後に申請できるトライアル雇用助成金と異なり、キャリアアップ助成金は1年間に渡って継続的に取り組む必要があります。また、当然のことながらトライアル期間終了後に常用雇用をしない場合は支給対象となりません。

まとめ

今回はトライアル雇用の制度概要、メリット・デメリット、トライアル雇用を利用した事業者に支給されるトライアル雇用助成金等について解説しました。

人材採用に課題を抱えている方は、トライアル雇用の実施を検討されてみてはいかがでしょうか。

東京スタートアップ法律事務所では、様々な企業の状況やニーズに合わせた人材採用についてアドバイスさせていただいております。お電話やオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士高島 宏彰 第二東京弁護士会
2012年筑波大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。BtoC、CtoC取引等の法分野(消費者契約法・特定商取引法・資金決済法等)に明るく、企業法務全般に取り組んでいる。