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投稿日: 更新日: 弁護士 橋本 大輔

自然退職とは?休職期間満了や無断欠勤時のトラブル回避策も解説

自然退職は、従業員が無断欠勤を繰り返して音信不通になっている場合や、休職期間終了時に休職事由が解消していない場合などに、自動的にその従業員との労働契約を終了し、退職扱いとする制度です。自然退職により従業員との労働契約を終了させるためには、就業規則に規定を設ける等の条件があります。条件をクリアしていた場合でも、労働契約の終了は従業員にとって生活の糧を失うことを意味するため、様々なトラブルの種となるおそれがあり、注意が必要です。

今回は、自然退職に関する基本的な知識、就業規則に必要な規定、自然退職に関するトラブル事例、自然退職に関するトラブルを防ぐための対策などについて解説します。

自然退職とは

自然退職とは、労働者や会社の意思表示なく自動的に労働契約が終了することをいいます。
労働契約は本来、会社と労働者の意思の合致により成立するので、労働契約の終了も双方の合意によるのが原則ですが、一方の当事者の一方的な意思表示による退職もあります。意思表示を行う側により、退職は以下のように分類されます。

  • 合意退職:両当事者の合意による退職
  • 辞職:労働者側の意思表示による退職
  • 解雇:会社側の意思表示による退職

多くの場合、労働契約は合意退職または辞職という形で終了します。しかし、何らかの事情により当事者が労働契約を終了させるための意思表示をすることなく労働契約が終了することがあります。これを自然退職と呼びます。自然退職となるのは主に以下のようなケースです。

  • 定年に達した時(定年退職)
  • 在職中の従業員が死亡した場合
  • 無断欠勤で連絡がとれない状態が続いた場合
  • 病気を理由に休職したけれど、休職期間が満了しても病気が治癒せず復職できない場合

就業規則等に必要な規定

労働者が死亡した場合には労働契約は当然に終了しますが、定年退職、無断欠勤、休職期間の満了時に休職事由が解消しなかったこと等を理由に労働契約を終了させるためには、あらかじめ就業規則や雇用契約書に自然退職に関する規定を設けておく必要があります。必要な規定について具体的な規定例を交えながら説明します。

1.休職期間満了後の自然退職

病気により休職した従業員が休職期間満了後も病気が完治せず復職できる状態ではないことを理由に労働契約を終了させたい場合、就業規則等に「休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする」旨の規定を設けることが必要です。当然ながら、前提として「どのような要件を満たした場合に何か月間休職させるか」という休職に関する規定が必要です。

2.無断欠勤が続いた場合

従業員が無断欠勤を繰り返して連絡がとれない状態が一定期間続いた後に自然退職とするという規定を設けている企業も多いです。この場合、就業規則等に「○○日間無断欠勤を続けた場合は、その最終の日をもって自然退職したものとする」などという規定を設ける必要があります。自然退職の要件となる無断欠勤の期間は2週間から1か月程度が適当だといわれています。

自己都合退職・会社都合退職のどちらに該当するか

自然退職は、自己都合退職と会社都合退職のどちらに該当するのでしょうか。まずは自己都合退職と会社都合退職の違いについて概説した後、自然退職はどちらに該当するのか説明します。

1.自己都合退職と会社都合退職の違い

退職は、以下の2つの種類に分類されています。

  • 自己都合退職:他社への転職、転居、病気療養等、自身の都合による退職
  • 会社都合退職:倒産、経営状況の悪化、ハラスメント被害など会社が責任を負うべき理由による退職

自己都合退職と会社都合退職の大きな違いは、失業保険の支給の場面で生じます。自己都合退職の場合、最短支給開始日は退職後7日間の待機期間プラス3か月後、支給日数は90日から150日とされています。一方、会社都合退職の場合、最短支給開始日は退職から7日後、支給日数は90日から150日となり、退職者にとって失業後すぐに失業保険を受給できるという大きなメリットがあります。

2.自然退職はどちらに該当するのか

自然退職は退職の意思表示なく労働契約が終了するため、会社側の都合による退職には該当しません。従業員側の都合にも該当しないと考えられますが、無断欠勤や休職期間の満了を理由に退職する場合は労働者が労働契約に基づいて労務を提供することができなくなったと解釈できることから、自己都合退職とされるのが通常です。

自然退職に関するトラブル事例

自然退職の典型例として、無断欠勤による退職、休職期間の満了による退職、定年退職、従業員が死亡したことによる退職などがあると前述しました。このうち、従業員が死亡したことによる退職は、労働契約が終了することは当然と考えられるため、トラブルになることはほとんどありません。しかし、それ以外のケースでは、労働契約が終了を巡って労使間トラブルに発展するおそれがあります。自然退職を巡るトラブルの典型的な事例について説明します。

1.無断欠勤による自然退職

無断欠勤が続いたことによる自然退職は、会社側に何ら責任がないにもかかわらず従業員が出社しなくなることが想定されています。しかし、無断欠勤が続いて自然退職扱いとなった元従業員から「出社できなくなったのは会社の責任だ」と主張されるケースは少なくありません。
従業員が出社できなくなったことについて会社が責任を問われるケースの例として、社内でパワハラ、セクハラがあった場合が挙げられます。例えば、従業員が会社へ連絡することなく出社しなくなり一定期間が経過したので、就業規則の自然退職の規定に基づいて退職の扱いとしたが、その後、従業員から「出社できなくなったのは上司からパワハラを受けたからだ」と主張されたとします。パワハラの事実が認められた場合、会社が従業員を退職させたことは無効とされて欠勤中の賃金を請求されるだけでなく、パワハラを理由に損害賠償を請求されるおそれもあります。無断欠勤の背景にはパワハラなどのハラスメント被害や不慮の事故などの深刻な原因が潜んでいる可能性もあるため、慎重な対応が必要だということを認識しておきましょう。

2.休職期間の満了時の自然退職

うつ病などの精神疾患に罹患して休職した従業員が休職期間満了後も完治しなかったため就業規則の規定に従って自然退職とするケースも、法的な紛争等のトラブルに発展しやすい典型例です。会社での長時間労働やハラスメント被害等の原因により精神疾患を発症した場合は特にトラブルに発展する可能性が高いため注意が必要です。

職場に関連するストレスが原因で精神疾患を発症した従業員に対し、会社が行うべき適切な対応を怠った場合、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求されるおそれがあります。近年、職場に関連するストレスにより精神疾患に罹患する方は増加傾向にあるので、従業員が精神疾患を発症した場合の対応や予防策について積極的に検討しておくことをおすすめします。

3.新型コロナウイルス感染拡大によるトラブル

昨今、新型コロナウイルスの感染拡大による自然退職を巡るトラブルも増えているようです。
例えば、新型コロナウイルスへの感染が疑われる従業員に対して、会社が自宅待機するよう命令を出したが、その後に連絡が取れなくなり、就業規則の規定に基づいて自然退職の扱いとしたとします。後日、その従業員から「会社から自宅待機命令を受けて出社しなかっただけなので、退職は無効だ」と主張された場合、退職は無効と判断される可能性が高いです。会社が強制的に従業員を休ませた場合、労働基準法が定める休業手当の支払い義務も生じます。
新型コロナウイルス感染の疑いがある従業員を一時的に休ませる場合、どのような扱いにするか明確にするとともに、PCR検査の結果や症状等について継続的に聞き取る体制を整えておくことが大切です。また、復職の判断基準も明確に決めておく必要があります。

自然退職を巡るトラブルを防ぐためのポイント

自然退職を巡るトラブルの典型について説明しましたが、このようなトラブルを防ぐためには具体的にどのような対策が求められるのでしょうか。自然退職を巡るトラブルを防ぐためのポイントについて説明します。

1.就業規則等に規定する

自然退職を巡るトラブルを防ぐためには、前述した通り、就業規則や雇用契約書に自然退職に関する規定を設けておくことが重要です。
ただし、労働者に著しく不利な規定は合理性を欠くことから無効と判断とされる可能性があるため注意が必要です。例えば、わずか2~3日の無断欠勤を理由に自然退職とするという規定は無効と判断される可能性が高いでしょう。

2.連絡が取れない場合は最善を尽くす

無断欠勤で連絡が取れない状態が続いた場合、自然退職扱いとする前に、従業員の自宅を訪問する、身元保証人に連絡する、書面等で出勤の催促をする等、従業員と連絡を取り、出勤を促すために最善を尽くすことが大切です。就業規則に基づく自然退職は、あらゆる手段を尽くしても連絡が取れない場合の最終手段という位置づけであることを認識しておきましょう。

3.ハラスメントの疑いがある場合は調査する

従業員から、無断欠勤の原因は上司からのパワハラやセクハラ等のハラスメント被害であたと主張された場合、従業員が主張する事実が真実であるか調査する必要があります。
まずは被害者や目撃者などの関係者を対象として聞き取り調査を行いましょう。パワハラやセクハラは加害者に自覚がない場合もあるため、どのような状況でどのような言動をしたのかという客観的な事実に関する情報を収集することが重要です。調査の結果、パワハラやセクハラの事実が確認できなかった場合でも、当事者間の誤解を解くための働きかけ等の適切な対応が求められます。

4.休職期間満了の場合は十分な復職支援を行う

うつ病などの精神疾患により休職させたが休職期間が満了しても職場復帰できるレベルまで治癒しない場合、就業規則の規定に基づいて自然退職扱いとしても特に問題がないように思えるかもしれません。たしかに、労働者には労働契約に基づき労務を提供する義務があり、精神疾患により労務を提供できていない場合は労働契約に基づく義務を履行していない状態といえます。
しかし、精神疾患により一定期間休職した後の退職は本人にとって望ましくない結果である場合が多いため、会社に対する不満から法的手段を用いて会社を訴えるケースも少なくありません。職場に関連するストレスにより精神疾患を発症した場合、法的な紛争では会社側が不利な立場に陥る可能性が高いため注意が必要です。

最近は、精神疾患により休職した従業員の復職を支援するために、リハビリ勤務制度を導入する企業も増えています。リハビリ勤務制度は、復職当初は通常より短い勤務時間・軽微な作業から開始して段階的に通常勤務に戻す制度で、うつ病の再発防止にも役立つことが知られています。

まとめ

今回は、自然退職に関する基本的な知識、自然退職に関するトラブル事例、自然退職に関するトラブルを防ぐための対策などについて解説しました。

自然退職の規定は、従業員と音信不通になる、精神疾患が長期間に渡り治癒しない等のトラブルに対応するために必要不可欠ですが、自然退職により労働契約を終了させたことが契機となり深刻なトラブルに発展する可能性があるという点もしっかり認識しておきましょう。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務のスペシャリストが様々な企業のニーズや方針に合わせたサポートを提供しております。自然退職に関する就業規則等の規定の見直しや自然退職を巡る労使間トラブルの解決支援等にも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士橋本 大輔 東京弁護士会
2013年慶応義塾大学卒。2014年司法試験予備試験合格。2015年司法試験合格。2016年弁護士登録。特に会社法・知的財産権・労務・事業再生等に明るく、企業法務案件全般に取り組んでいる。