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投稿日: 弁護士 沼口 格

職場のいじめ対策と注意点・典型的な事例と原因も解説

近年、職場でいじめの被害を受けて精神的なダメージを負う労働者が増加傾向にあり、問題視されています。厚生労働省が公表した『平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、民事上の個別労働紛争の相談内容で最も多いのは、いじめ・嫌がらせに関する相談で、前年比プラス14.9%の82,797件でした。

最近は、職場でいじめの被害を受けた従業員が企業を訴えるケースが増加傾向にあるため、リスクマネジメントの観点から職場のいじめ対策に積極的に取り組む企業も増えています。

今回は、職場のいじめの特徴、職場のいじめの典型的な事例、職場のいじめを放置するリスク、会社に求められるいじめ対策と注意点などについて解説します。

職場のいじめの特徴

いじめというと、小中学生など未熟な子供同士の間で起きる問題というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。しかし、大人同士の間でも、いじめが発生することは珍しいことではありません。特に、多様な価値観や考え方を持つ大人の集団社会である職場で、いじめは多発しています。職場内でのいじめの特徴やリスクについて説明します。

1.表面化しづらい

職場内でのいじめには表面化しづらいという特徴があります。
職場のいじめの代表格として広く認知されているが、職務上の地位を利用して弱い立場の従業員に対して嫌がらせを行うパワーハラスメント(パワハラ)です。仕事上の些細なミスを皆に聞こえるくらいの大声で叱責するなどの行為もパワハラに該当しますが、仕事上の指導や注意と判別しづらいという問題点が度々指摘されていました。
また、無視する、バカにするなどの態度を継続することにより被害者を精神的に追い詰めるモラハラなどは、周囲の目が行き届かない所でいじめが横行している場合もあり、表面化するのは氷山の一角であるとも言われています。

2.精神疾患発症のリスクが高い

フルタイムで働いている多くの人にとって、職場で過ごす時間は生活の中で大きなウエイトを占めています。学校でいじめの被害を受けた場合は不登校により加害者と距離を置くことが可能ですが、職場内のいじめの場合、仕事を放棄すれば収入が途絶えてしまいますし、職場の仲間に迷惑をかけることにもなり、簡単に加害者と距離を置くことはできません。職場内でのいじめから逃れるために転職という道を選ぶ方もいらっしゃいますが、生活のために我慢して耐え続ける方も多いのが実状です。
毎日、長い時間を過ごす職場でいじめに耐え続けて継続的にストレスを感じ続けるとうつ病などの精神疾患を発症するリスクが高まるといわれています。

職場のいじめの典型的な事例

職場のいじめに遭遇したことがなく、具体的なイメージが湧かないという方もいらっしゃるかもしれません。職場では、様々な考え方を持つ人が異なる立場で働いているので、多様ないじめが起きる可能性がありますが、中でも典型例として知られている事例をご紹介します。

1.パワハラの典型例

職場のいじめの代表格でもあるパワハラは、いくつかのタイプに分類できます。2020年1月に厚生労働省が公表した『職場のパワーハラスメント防止のための指針』では、職場のパワハラの典型例として以下の6種類の類型が示されました。

  • 身体的な攻撃:殴る蹴るなどの暴行、物を投げつける行為など
  • 精神的な攻撃:個人の人格や能力を否定するような暴言、必要以上に厳しい叱責など
  • 人間関係からの切り離し:一人だけ会議に呼ばない、集団で無視して孤立させるなど
  • 過大な要求:草むしりや窓拭きなど業務と無関係な雑用の強制、遂行不可能な業務量を任せるなど
  • 過小な要求 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、嫌がらせ目的で仕事を与えないなど
  • 個の侵害:職場外で従業員を監視する、性的指向や病歴などの個人情報を本人の了解を得ずに他の従業員に伝えるなど

最近は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために在宅勤務・テレワーク制度を導入する企業が急増する中、リモートワーク中に上司から四六時中監視される等の嫌がらせを受ける事例が多発し、問題視されています。

2.女性同士のいじめ

日本では、1986年に職場内での性別を理由にした差別禁止等を定めた男女雇用機会均等法(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)が施行され、政府は女性が働きやすい職場環境の整備を推進してきました。その結果、女性の社会進出が急速に進み、現在は、結婚・出産を経ても職場で活躍する女性は珍しくありません。しかし、その一方で、働く女性の増加に伴い、職場における女性同士のいじめも増加しているようです。

3.リストラを目的としたいじめ

職場内のいじめの多くは従業員同士の問題ですが、組織ぐるみでいじめのような行為が行われるケースもあります。労働者の政治的信条や組合活動を嫌悪して行われることもありますが、近年では、退職勧奨の対象者に対して、退職を選択せざるを得ない状況に追い込むことを目的として行われることも多いといわれています。
過去には、会社が不要とする従業員を自主退職に追い込むことを目的として設置されたリストラ部屋、追い出し部屋などと呼ばれる部署に配属し、新聞記事のスクラップなどの単純作業を行わせ続けることにより精神的に追い詰める等の悪質な手法を使う事例がメディアに取り上げられ、問題視されたこともあります。
従業員に対して退職を促す退職勧奨自体は合意解約の誘引であり行き過ぎたものでなければ違法行為ではありませんが、従業員の自由な意思決定を妨げるような組織ぐるみの嫌がらせは違法な退職強要とみなされるので注意が必要です。

職場のいじめを放置するリスク

従業員同士のいじめは、個人的な問題であり、会社が積極的に介入するべきではないと思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、職場のいじめは、職場の雰囲気を悪化させて生産性の低下を招くだけではなく、被害者の将来に大きなダメージを与える結果を招くおそれもあります。さらに、従業員が会社を訴えた場合には、会社が損害賠償責任を負うリスクもあります。そこで、職場のいじめを会社が放置した場合のリスクについて説明します。

1.被害者が精神疾患を発症した場合のリスク

従業員同士のいじめは、継続的に行われ、時間の経過と共にエスカレートする場合も多いです。職場内のいじめに耐え続けている方の中には、自分が思っている以上にストレスを感じていて、ある日突然、帯状疱疹を発症したという方もいらっしゃいます。帯状疱疹は過労やストレスなどによる免疫力の低下が原因となることが知られています。いじめによるストレスが原因で、不眠、頭痛、下痢や腹痛などの神経症状が出る場合もあります。

最近は、職場内でのいじめ被害により、うつ病や不安障害などの精神疾患を発症するケースも増加しています。うつ病を発症した場合、治療と休養に専念する期間が必要となります。精神疾患を発症した従業員のために休職制度を設ける企業も増えていますが、一人の従業員が長期間休職すると、他の従業員の負担が増える等の問題も生じます。また、休業期間満了後も症状が改善されず、復職は不可能と判断される場合も珍しくはありません。

2.損害賠償責任を問われる可能性も

職場におけるいじめや嫌がらせは,従業員の名誉や自由などの人格権を侵害する行為に該当する場合があり、加害者は不法行為に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります(民法第709条)し、使用者も使用者責任に基づく損害賠償責任を問われる可能性もあります(民法第715条)。
また、職場のいじめによるストレスが原因で精神疾患を発症した従業員に対して、会社が行うべき適切な対応を行うことを怠った場合、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を問われる可能性があります。安全配慮義務とは、会社が従業員に業務を行わせるにあたり、労働者の健康を守るために配慮すべき義務のことをいいます(労働契約法第5条)。安全配慮義務で守るべき健康には、身体的な健康だけではなくメンタルヘルスも含まれるという点はしっかり認識しておきましょう。

職場でいじめが発覚した際に企業が取るべき対応

職場でいじめが発覚した場合、企業はどのような対応を行うべきなのでしょうか。いじめが発覚した際の適切な対応について説明します。

1.事実関係の把握

職場でいじめが発覚した場合、まずは事実関係を確認する必要があります。事実関係を確認するためには、いじめの内容について被害者から詳しい話を聴く必要がありますが、被害者は精神的なダメージを負っている可能性も高いので心理面に十分配慮する必要があります。被害者が精神的に不安定な状態に陥っている場合、いじめの被害にあった場面を思い出すこと自体が大きな負担になる可能性が高いです。被害者の精神的な状態に応じて、休暇を与える、心療内科の受診を促す等の適切な対応をとりましょう。

被害者の精神状態が落ち着いていてヒアリングが可能な状態の場合、最初に被害者に対して情報が漏れないように十分に配慮することを約束して下さい。被害者はいじめについて相談したことが加害者に知られて報復されることを恐れている可能性が高いからです。

ヒアリングの際、被害者の話をじっくり聴くことも大切ですが、客観的に事実を把握するためにメールの履歴や加害者の発言の録音などが残っている場合は証拠として提出してもらうとよいでしょう。また、本人の了承を得られた場合、いじめを目撃した周囲の人からもヒアリングを行うと、より客観的に状況を把握することができます。

ヒアリングの結果、いじめの事実が確認されなかった場合でも、相談者が納得できるような対応が求められます。当事者間の誤解を解き、人間関係を改善するための働きかけをすることが大切です。

2.加害者への処分

ヒアリングの結果、いじめの事実を確認できた場合、加害者に対して必要な注意や指導などを行い、改善を促します。パワハラの場合、加害者は部下を熱心に指導する意図しか持っていなかったという場合もあるので、加害者の話を十分聴いた上で、適切な注意や指導を行うことが大切です。

その後、改善がみられない場合は懲戒処分を検討します。いきなり懲戒処分を行うと、加害者側が会社を訴えた場合に会社が不利な立場に陥る可能性がありますので、加害者に対する処分を検討する前に、必ず適切な注意や指導を行うことが大切です。
懲戒処分を行う場合、就業規則の規定に基づき、適切な手続きに則って行うことが大切です。懲戒処分は就業規則等に規定がない場合は認められないので必ず就業規則の規定を確認して下さい。また、トラブルを回避するためにも、過度に重い処分にならないように細心の注意を払うようにして下さい。

会社が行うべき職場のいじめ防止対策と注意点

職場でいじめが発生すると、職場内の雰囲気が悪くなる、生産性が低下する、優秀な人材が流出するなど様々な悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、いじめを未然に防ぐことは非常に大切です。いじめを未然に防止するための対策と注意点について説明します。

1.方針の明確化

職場内のいじめを未然に防止するためには、経営陣が全従業員に対して公平で公正な態度を貫き、従業員の人格や人間性を尊重する企業風土作りに積極的に取り組むことが大切です。些細ないじめも許さない・見過ごさない職場を目指す姿勢を明確に示して全従業員に周知することは、従業員一人ひとりの「いじめを見て見ぬふりをしてはいけないんだ」という意識を高めることにつながります。

2.懲戒規定の制定

職場内のいじめを未然に防止するためには、就業規則や職場における服務規律を規定した文書に、いじめの加害者に対する処分を記載した懲戒規定を明記することも大切です。懲戒規定を定め、その内容を従業員に対して周知することにより、いじめの抑止効果が期待できます。

3.相談窓口の設置

職場でいじめの被害に遭っていることを相談できる場所がないと、被害者は一人で悩みを抱えることになります。そのような事態を防ぎ、いじめの早期発見を実現するためには、いじめの被害を受けた際に気軽に相談できる窓口を設けて、周知することが大切です。周知する際は、従業員が安心して相談できるよう以下の内容を伝えるとよいでしょう。

  • 相談者のプライバシーは確実に保護されること
  • 相談したことにより異動、解雇などの不利益な扱いを受けることは一切ないこと
  • 些細ないじめでも相談が可能なこと

相談窓口は社内の人事部などの部署内に設置するケースもありますが、最近は法律事務所や民間の専門機関など社外に相談窓口を設ける企業も増えています。社外に相談窓口を設けることは、相談者が加害者に知られることを恐れず安心して利用できるというメリットがあります。

2019年5月に労働施策総合推進法が改正され、パワハラ防止措置として、企業にハラスメントに関する相談窓口を設置することが義務付けられました。改正労働施策総合推進法は、大企業は2020年6月1日、中小企業は2022年4月1日から施行されます。中小企業は施行までは努力義務とされていますが、職場内のパワハラやいじめを早期発見するためにも、早めに相談窓口の設置を検討することをおすすめします。

4.メンタルヘルス対策

職場内のいじめを未然に防止するためには、メンタルヘルス対策に積極的に取り組むことも効果的です。いじめの加害者の中には、過剰なストレスを受けている等の問題を抱えている方が多いといわれています。過剰なストレスを解消するために、自分より弱い立場の部下や同僚をいじめてしまうのです。
会社が積極的にメンタルヘルス対策に取り組むことにより、従業員のストレス軽減効果が期待でき、結果的にいじめの予防につながる可能性が高いというわけです。

まとめ

今回は、職場のいじめの特徴、職場のいじめの典型的な事例、職場のいじめを放置するリスク、会社に求められるいじめ対策と注意点について解説しました。

従業員同士のいじめは個人的な問題のようにも思えますが、リスクマネジメントの観点からも企業が積極的に取り組むべき課題であることを認識し、積極的に対策を講じることが望ましいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務や経営のスペシャリストがノウハウを結集して、様々な企業のニーズに合わせたサポートを提供しております。職場のいじめ対策に関するご相談も受け付けていますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士沼口 格 第二東京弁護士会
大学卒業後、特別養護老人ホームにて非常勤・一般職員として勤務した後、司法試験を志し法科大学院に入学し司法試験合格後弁護士となりました。 弁護士登録以降は債務整理、離婚、相続、成年後見、交通事故、残業代請求、建物明渡、賃料増減額請求、債権回収、刑事事件等個人のお客様から法人のお客様まで幅広い案件を取り扱ってまいりました。