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投稿日: 弁護士 橋本 大輔

限定正社員とは・給与やボーナスを決める基準や法律上の注意点も解説

近年、ワークライフバランスを重視する労働者が増加して柔軟な働き方へのニーズが高まる中、勤務地・勤務時間・業務範囲を限定した限定正社員という新しい雇用形態が誕生しました。2007年にユニクロが地域限定正社員制度を導入したのをはじめ、メガバンクや日本郵政でも新一般職やスマート社員等の名称で勤務地・勤務時間・業務範囲を限定する限定正社員制度を導入しています。

限定正社員は労使双方にとってメリットの多い雇用形態ですが、導入する際は従来の正社員との給料や賞与の差をどの程度にすべきかなど慎重な検討が求められる点は少なくありません。

今回は、限定正社員の種類、正社員や契約社員との違い、限定正社員の給与やボーナスを決める際の基準や法律上の注意点、限定正社員を解雇する際の注意点などについて解説します。

限定正社員とは

限定正社員は、正規と非正規の雇用の二極化が進み、非正規労働者の雇止めが社会問題化したことを背景に、非正規労働者の雇用対策として誕生した制度です。まずは、限定正社員の概要や限定正社員が誕生した背景について説明します。

1.限定正社員で限定されること

限定正社員とは、勤務地・勤務時間・業務範囲(職務)が限定されている正社員のことです。
限定正社員は、一般の正社員に比べて、労働条件が狭い範囲に限定されています。会社側は、契約内容の範囲を超えて限定正社員に異動や転勤、残業等を命じることはできません。一方、会社の業績悪化等で、限定正社員が従事する勤務地や職種部門を閉鎖しなければならない場合には、異動や転勤が制限される分、解雇が違法になりにくい傾向にあります。

2.限定正社員が誕生した背景

2013年に労働基準法が改正され、「5年を超えて働く非正規労働者については、その労働者の申し出により、企業は無期契約に切り替えなければならない」というルールが設けられました。しかし、申し出た労働者を全員正社員として雇うと、会社側が負担する人件費が増加し、経営状況を悪化させるリスクを負うことになります。

また、非正規社員は、元々仕事内容や勤務地、勤務時間が限定された条件で雇用されている場合が大半なので、「正社員に切り替わったために転勤を命じられるのは困る」という方も多いです。

そこで、契約期間を無期化するだけで、仕事内容、勤務地、勤務時間といった条件は従来通り限定して働く限定正社員という制度が誕生しました。

限定正社員の3つの種類

限定正社員は、限定される条件により3つの種類に分類されます。限定正社員の種類について説明します。

1.勤務地限定正社員(地域限定正社員)

勤務地限定正社員は、転勤が全くない、引っ越しを伴う転勤がない、転勤はあるが地域が制限されている等、勤務地を限定した働き方をする正社員のことです。地域限定正社員、エリア限定正社員と呼ばれることもあります。勤務地は制限されますが、職種間の異動や、ジョブローテーション、残業等は、他の無期雇用の一般の正社員と同様にあります。中小企業の場合は事業所の数が限られるため、あまり必要とされませんが、大企業では、女性を中心にニーズが多いようです。

2.勤務時間限定正社員

勤務時間限定正社員は、勤務時間(所定労働時間)がフルタイムではない、残業は一切しなくてよい等、勤務時間が短時間に限定された働き方をする正社員のことす。勤務時間が1週間の所定労働時間である40時間未満の場合や、フルタイム勤務で休日出勤や残業が免除されるケースも含まれます。

3.職務限定正社員

職務限定正社員は、職種間の異動がない、業務の掛け持ちをしない等、職務内容や業務の範囲が限定され、他の仕事と明確に区別された働き方をする正社員のことです。従来は、派遣社員や契約社員、パート社員等に多かった雇用形態ですが、今後は正社員の中でも増加する可能性があります。

限定正社員のメリットとデメリット

限定正社員はメリットの多い雇用形態といわれていますが、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。限定正社員のメリットとデメリットについて説明します。

1.労使双方にとってメリットのある雇用形態

限定正社員は労使双方にとってメリットの多い雇用形態だといわれています。労働者の側では、ワークライフバランスを実現できる、長期に渡って安定して働けるという点に魅力を感じている方が多いようです。
企業側のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 優秀な人材を確保・活用できること
  • 地域に対応した安定的な事業展開が期待できること
  • 有期雇用労働者の無期転換の受け皿になること

少子高齢化が進むに伴い、人材不足に悩む企業が増加することが予想されるため、優秀な人材を確保するために限定正社員を導入することは、企業にとって有意義な施策といえるのではないでしょうか。

2.雇用管理が複雑化する等のデメリットも

企業側のデメリットとして、以下のような点が挙げられます。

  • 雇用管理が複雑化すること
  • 有期雇用労働者と比較して解雇のハードルが高いこと
  • 配置転換などの制限があるため人事権が制限されること

限定正社員は歴史の浅い雇用形態なので、メリットのみがクローズアップされることが多いですが、上記のようなデメリットもあるということは認識しておきましょう。

限定正社員と正社員や契約社員との違い

限定正社員と、従来の正社員や契約社員との違いがよくわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。限定正社員と正社員や契約社員との違いについて説明します。

1.限定正社員と正社員の違い

限定正社員は、一般の正社員と同様に無期雇用されますが、転勤、異動、残業などの負担が少ない条件で雇用される点が異なります。限定正社員のニーズに合う条件が提示される反面、以下のような点で正社員との差が生じる場合もあります。

  • 給料や賞与:一般の正社員より安い
  • 昇進:一般の正社員より遅れる、または制限される
  • 業務内容:一般の正社員は幅広い業務を担当するが、業務を限定した限定正社員は限られた業務のみ
  • 勤務地:一般の正社員は全国転勤の可能性があるが、勤務地を限定した限定正社員は限られた地域のみ
  • 解雇:法律の規定に従うが、限定正社員の方が解雇されやすい場合もある

2.限定正社員と契約社員の違い

限定正社員は無期雇用の正社員ですが、契約社員は労働契約の期間に定めがある、有期雇用の非正規社員である点で異なります。契約社員は、契約期間の満了時に労働契約を更新しない場合は契約終了となります。ただし、契約社員でも、同じ会社で5年を超えて継続して勤務した場合は、本人が希望すれば無期雇用契約に切り替えることが義務付けられています。無期雇用契約に切り替える際に、一般の正社員と同様の契約になるか、限定正社員として契約するかは、当事者間で交わす契約の内容によって決まります。

限定正社員の給与やボーナスを決める際の注意点

限定正社員の給料や賞与を決める際、勤務地や勤務時間等に制限があることを理由に一般の正社員と差を設けることばあります。一般の正社員と差を設ける場合、法律上、どの程度まで許容されるのでしょうか。給与やボーナスなどの待遇を決める際の注意点について説明します。

1.給与の待遇の注意点

働き方改革関連法案の成立により、同一労働同一賃金の原則が定められ(大企業は2020 年4月、中小企業は2021年4月施行)、正規労働者と非正規労働者との間の不合理な待遇差が禁止されました。

限定正社員は非正規労働者ではないため、直接の適用はありませんが、その趣旨はより厳格に適用されやすいといわれています。

そのため、給与に差を設ける場合は、一般の正社員と限定正社員の勤務条件の差と給与の差が合理的な範囲内であると説明できることが必要です。具体的な方法について説明します。

①勤務地限定正社員の場合

勤務地を限定した限定正社員の場合、一般の正社員と限定正社員に同じ給与水準を適用した上で、転勤の有無により一定の割合を乗じる、転勤手当を支給するなどの方法が考えられます。

②勤務時間限定正社員の場合

短時間勤務の勤務時間限定正社員の場合、一般の正社員の給与水準を基準に、勤務時間の長短に比例して金額を決めるとよいでしょう。残業や休日出勤が制限される場合は、それにより業務が限定されることを理由に若干の調整を加えることも合理的といえます。

③職務限定正社員の場合

職務を限定した限定正社員の場合、勤務地や勤務時間を限定した限定正社員と比較して、給与の差を説明するのが難しいため注意が必要です。職務の難易度に応じて決める場合は難易度の客観的評価が問題になる可能性もあるので、職務給を定める、責任度に応じた給与体系を採用するなどの方法が望ましいでしょう。

2.ボーナスの待遇の注意点

上記の同一労働同一賃金の原則は、賞与にも適用されます。非正規雇用者に賞与を支給しないことの合理性が争われた裁判では、賞与は「正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力、責任の程度等から、正職員としての職務を遂行できる人材を確保し、定着を図る目的で支給されるもの」として、非正規雇用者への不支給は不合理な格差ではないという判断が下されました(2020年10月13日最高裁判所判決)。

この判決の趣旨からすると、限定正社員も正社員とはいえ、勤務地や勤務時間等が限定されているという違いがあることから、合理的な範囲内で待遇に差を付けることは許容されると考えられます。

ただし、勤務時間を極端に短く設定していた場合などでも、ボーナスの支給がないことに対して従業員が不満を持つ可能性は高いです。限定した職務内容や労働時間の割合に応じた金額を支給するなど客観的な基準を設けた上で限定正社員にも賞与を支給することが望ましいでしょう。

限定正社員を導入する際の手続と注意点

限定正社員制度を導入する際に必要となる手続と雇用契約を締結する際の注意点について説明します。

1.限定正社員制度導入時の手続

①就業規則の改訂

限定正社員を導入する際は、就業規則に必要な規定を追加して下さい。例えば、勤務場所を限定する場合、「限定正社員の勤務場所は●●事業所に限り、異動は行わないものとする。」「限定正社員の勤務場所は、労働契約書に定める事業所とする。」などの規定が必要となります。また、定年制や昇給・昇進などに関する規定も定めておきましょう。

②同一労働同一賃金の原則に反しない給与体系

同一労働同一賃金の原則は、無期雇用労働者と有期雇用労働者との待遇差に関する原則ですが、限定正社員もその趣旨に反しないように、給与差を合理的な範囲に留めるようにあらかじめルールを決めておく必要があります。職務内容や勤務時間によってどのくらいの割合で調整するのか、事前に決めておきましょう。

2.雇用契約締結時の注意点

雇用契約を締結する際は、何がどのように限定されるのか、限定の内容を明示して契約書を交わしましょう。特に、就業場所については書面での明示が義務付けられているので、就業規則の改訂に加え、雇用契約書や労働条件通知書で明示してください(労働基準法第15条1項、同規則第5条)。

一般の正社員と限定正社員の待遇差が客観的に合理的なものであることを理解してもらうために、対象となる従業員に対して説明会を開催することも有効です。

限定正社員を解雇する際に注意すべき法律の規定

限定正社員と一般の正社員との違いの一つとして、限定正社員の方が解雇されやすい場合があるという点を前述しました。ただし、解雇については、限定正社員も一般の正社員も、法律に基づいて、客観的に合理的な理由と社会通念上相当であることが求められ、これを欠くと解雇権の濫用として解雇が無効になる点は同じです(労働契約法第16条)。

整理解雇(リストラ)する際も、整理解雇の4要件である、①解雇の必要性、②解雇回避の努力、③解雇対象者の選定の合理性、④手続の妥当性を満たす必要があります。ただし、限定正社員の場合は、職種や勤務地が限定されているので、解雇回避の努力義務もその範囲に限定されます。

一般の正社員の場合は、会社の業績悪化等で所属部署や事業所を閉鎖する場合は、別の部署に異動させて解雇を避ける等の努力が必要ですが、限定正社員の場合は、勤務地や職種が限定されているので、異動させる必要がありません。つまり、解雇の必要性、解雇者の合理的な選定、手続の妥当性を満たせば整理解雇が有効になるので、一般の正社員よりも解雇が認められやすいといえるでしょう。

ただし、所属部署や事業所の廃止に伴う解雇を突然申し入れると、後から労使トラブルに発展しかねません。まずは、他の事業所への転勤や異動を協議するなど、解雇を回避する方法を模索しましょう。雇用を継続するのが困難なほど経営状態が悪化している場合は解雇の同意が得られるように十分説明することが大切です。

まとめ

今回は、限定正社員の種類、正社員や契約社員との違い、限定正社員の給与やボーナスを決める際の基準や法律上の注意点、限定正社員を解雇する際の注意点などについて解説しました。

限定正社員は、多様な働き方のニーズを実現するなどメリットの多い雇用形態ですが、一般的な正社員との待遇差を設ける場合は合理的な範囲内に留めるなど慎重な対応が求められます。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況や方針に合う限定正社員の導入や就業規則の改訂等のサポートを行っております。お電話やオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

弁護士橋本 大輔 東京弁護士会
2013年慶応義塾大学卒。2014年司法試験予備試験合格。2015年司法試験合格。2016年弁護士登録。特に会社法・知的財産権・労務・事業再生等に明るく、企業法務案件全般に取り組んでいる。