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投稿日: 弁護士 藤川 新

従業員シェアの法的リスク|在籍型出向実施時の注意事項も解説

従業員シェアは、新型コロナウイルス感染拡大の影響により業績の悪化した企業が、従業員の雇用を維持するための施策として、昨今注目されている制度です。厚生労働省も、雇用維持を目的とした在籍型出向による従業員シェアを推奨しています。
従業員シェアは、一時的な業績不振時の雇用維持に有効な制度ですが、適切な手続を踏まないと、労務管理の責任の所在が曖昧になるなどのトラブルが発生するおそれもあるため、注意が必要です。

今回は、従業員シェアの定義、従業員シェアを導入している企業の事例、従業員シェアのメリットとデメリット、従業員シェアに関する法的リスクと課題などについて解説します。

従業員シェアとは何か

従業員シェアとは、業績不振等により人材余剰が生じた会社の従業員を、人材不足の企業が一時的に受け入れる制度のことをいいます。雇用シェア、従業員シェアリングなどと呼ばれることもあります。
従業員シェアは、一般的に在籍型出向により行われます。在籍型出向とは、人材余剰が生じた会社の従業員が、会社に籍を置いたまま、人材不足の会社にも籍を置いて働き、一定期間が経過後、元の会社に復職する制度をいいます。
従業員シェアは、1980年代後半から1990年代に、企業が従業員の雇用を維持するための方法として利用されていました。昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、業績不振により雇用を維持することが難しくなった企業が増えた一方で、人手不足の問題を抱える企業もあり、両者の労働力のバランスを調整するために従業員シェアが活用されています。

なお、従業員シェアと似た言葉として、ワークシェアリングがありますが、両者は全く別の制度です。従業員シェアは複数の企業間で人材をシェアする制度ですが、ワークシェアリングは一定の業務を複数の人材でシェアする制度のことをいいます。

従業員シェアを導入している企業の事例

従業員シェアは多くの従業員を抱える大手企業が行うものというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、最近は中小企業の間でも雇用維持のために従業員シェアを活用する動きが活発化しています。実際に従業員シェアを導入した会社の事例をいくつかご紹介します。

1.従業員シェアを導入した大手企業の事例

①ノジマ

大手家電量販店のノジマは、2020年11月中旬から、従業員シェアにより、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)の従業員を受け入れています。ノジマに出向した従業員は、約1週間の研修を経て、ノジマの販売部門やコールセンターの業務に従事しているそうです。ノジマは、社会情勢の改善への一助や相互の接遇レベルの向上を図ることを目指し、ホテルや旅行業界などからの出向も受け入れる方針を掲げています。

②パソナグループ

大手人材派遣会社のパソナグループは、2020年12月から、航空、旅行、ホテル業界などから、出向者を募集しています。将来的には、最大千人程度の人材を従業員シェアで受け入れる可能性があるそうです。パソナグループに出向した従業員は、兵庫県の淡路島にあるパソナのオフィスで営業や人事の業務を担当し、語学などの研修も実施する予定とのことです。

③イオングループ

全国各地でショッピングセンターの展開などを行うイオングループのイオンリテールでは、大手居酒屋チェーンのチムニーから、従業員シェアにより45人の出向者を受け入れています。居酒屋での接客や調理の経験を生かし、スーパーの鮮魚売り場を担当させているそうです。イオングループは、従業員シェアを多様なスキルを持つ人材を確保するチャンスと捉え、出向者の中から数名を転籍させているとのことです。

2.コロナ禍の中小企業における従業員シェア活用事例

新型コロナウイルスの感染拡大により深刻な影響を受けた、航空運送業、 旅館・ホテル業、飲食業界などの人材を、人材不足の問題を抱える企業が受け入れる動きが、中小企業の間でも拡大しています。厚生労働省が公開している『在籍型出向“基本がわかる” ハンドブック』には、以下のような事例が掲載されていました。

  • 製麺業の企業が金属材料製造業の熟練工を製麺作業員として受け入れた例
  • 知的障害児入所施設が肉加工食品業者の従業員を受け入れた例
  • 新規出店計画中の小売業者が航空運送業の従業員を店舗での販売員として受け入れた例

『在籍型出向“基本がわかる” ハンドブック』には、他にも異業種間での従業員シェアの事例が複数紹介されていましたので、詳しく知りたい方はこちらをご覧下さい。

従業員シェアのメリット

従業員シェアは、従業員を出向させる企業と受け入れる企業の双方にメリットがあるといわれています。具体的なメリットについて説明します。

1.出向元の会社が雇用を継続して人件費を抑えられる

従業員シェアにより従業員を出向させた場合、従業員は出向元の会社に在籍したまま、人件費は出向先会社が負担するのが通常です。社会保険等の負担は、出向元の会社と出向先の会社の話し合いにより決定します。コロナ禍等で業績不振に陥った会社が雇用維持のために従業員シェアを活用する場合、出向先が負担するケースが多いです。
そのため、従業員シェアにより従業員を送り出した会社には、自社の従業員の雇用を継続しつつ、人件費が抑えられるというメリットがあります。

2.受入れ先会社は多様なスキルを持つ人材を獲得できる

従業員シェアで人材を受け入れる会社にとっては、採用コストをかけずに、多様なスキルを持つ人材を一時的に得られるというメリットがあります。また、従業員シェアは一時的なものであり、一定期間経過後は、従業員は出向元の会社に戻ることが想定されています。そのため、受入れ先の会社としては、従業員を継続雇用することで生じる昇給の負担や不当解雇のリスクなどを回避できることもメリットの一つといえるでしょう。

3.産業雇用安定助成金の対象になる

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて業績が悪化した企業が、従業員の雇用を維持することを目的とした在籍型出向による従業員シェアの活用を促進するために、政府は、出向元と出向先の双方の会社に対して、運営経費を助成する産業雇用安定助成金を創設しました。
産業雇用安定助成金は、出向元と受入れ先の会社が共同して、出向する従業員に関する経費の一部について申請を行い、国がそれぞれの会社に助成金を支給する制度です。
産業雇用安定助成金の受給条件等、詳細については、厚生労働省の公式サイトでご確認下さい。

従業員シェアのデメリット

従業員シェアは、出向元と出向先の双方の会社にとってメリットのある制度ですが、従業員シェアにより従業員の勤務条件が悪化した場合には労使間トラブルにつながるなどのデメリットもあります。具体的なデメリットについて説明します。

1.出向元と受入れ先の会社の労務関係の調整が必要

在籍型出向は、労働基準法等の法律の規定はなく、従業員の給料や社会保険料の負担などについては、出向元と受入れ先の会社間の話合いで決めることになります。就業規則や労働協約などで包括的同意があれば個別の同意は不要と解されています。
ただし、在籍型出向について従業員が不満を持つことにより、労使間トラブルに発展する可能性もあるため注意が必要です。従業員が不満を持つ可能性が高いケースとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 出向先で十分な給与が確保されていない
  • 全く関係ない業種への出向
  • 通勤時間が倍以上かかる職場への出向

従業員が在籍型出向について不満を持ち会社を訴えた場合、法的紛争の場で、出向自体が無効と判断され、会社が損害賠償等の支払いを求められるおそれもあります。
労使間トラブルを避けるためには、出向先での待遇、給与、業務内容、職場環境などについて、会社間で労務関係の調整を行い、出向する従業員に対して丁寧に説明をした上で、同意を得ることが望ましいでしょう。

2.出向元の会社は優秀な人材を流出させるリスクがある

出向元の会社には、優秀な人材を流出させるリスクがあります。出向した従業員が、出向先の業務を通して自身が持つ新たな能力や可能性に気づき、自ら転職する可能性があるからです。出向元の会社としては、優秀な従業員が業績回復後に戻ってきて自社の戦力として活躍してほしいところですが、従業員シェアによって優秀な人材をつなぎとめられるとは限らないという点は認識しておく必要があります。

従業員シェアに関する法的リスクと課題

従業員シェアには上記のようなデメリットがありますが、それ以上に注意すべき法律上のリスクがあります。具体的なリスクや注意点について説明します。

1.職業安定法違反になるリスク

在籍型出向による従業員シェアで問題になるのが、労働者供給事業(職業安定法第44条違反)に該当する可能性があるという点です。労働者供給とは、自己が管理・統制する労働者を、他人の指揮・命令の下で就労させることをいいます。労働者供給事業に該当しないためには、業として行わないこと、つまり、ビジネスとして反復継続して行わないことが求められます。
コロナ禍の業績不振時に従業員の雇用を維持する目的で従業員シェアを一時的に行う場合は、労働者供給事業に該当する可能性は低いです。ただし、従業員シェアを反復継続して行う場合は、労働者供給事業に該当するとして職業安定法違反となる可能性があるため、注意が必要です。

2.雇用契約に伴う法的責任の所在が曖昧になりやすい

従業員シェアは、出向元会社との雇用契約を維持しつつ、受入れ先会社でも雇用契約を結ぶため、雇用契約に伴う法的責任の所在が曖昧になりやすいという問題点があります。具体的には、以下のような点が問題になることが多いです。

  • 従業員の給与の支払義務はどちらの会社が負うか
  • 社会保険の加入者は誰か
  • 労働災害が発生した場合の責任者は誰か

このような雇用契約に伴う法的責任の所在を巡るトラブルを回避するためには、事前に法的な責任関係を明らかにして、契約書に記載しておくことが大切です。
従業員シェアでは、受入れ先の企業が給与や社会保険の支払義務を負うケースが多いです。他方、出向元会社が給料を支払うケースや案分するケースもあります。そのような場合は、特に責任の所在が曖昧になりやすいため、労災が発生した場合の責任の所在なども含めて、明確に決めて契約書に明記する必要があります。

3.出向命令権の濫用と判断されるリスク

在籍型出向による従業員シェアでは、従業員は出向元の会社に籍を置いたまま出向先の会社で働くので、出向元の会社との契約関係を解除した上で移籍する転籍出向よりも従業員への影響は小さいようにも思えます。
(参考記事:転籍出向(移籍出向)契約とは|在籍出向との違いや注意点を解説 *2021年3月納品)
しかし、在籍型出向の場合でも、就業規則や労働協約などに出向に関する規定があることが求められます。規定がない場合、会社に出向命令権があると認められません。
また、規定がある場合でも、出向の必要性、出向者の選定、その他の事情を考慮して、出向命令権を濫用したと判断される場合、その出向は無効となります(労働契約法第14条)。出向により大幅に給料が減額されるなど、従業員が大きな不利益を被る場合も、出向命令権の濫用と判断される可能性があるため注意が必要です。

従業員シェアに関する課題を弁護士に相談するメリット

従業員シェアを行う際は、出向元の会社、出向先の会社、従業員の三者で合意を形成し、法律の趣旨や過去の裁判例に基づいて、適切に手続を進める必要があります。また、助成金を受給するためには、必要な要件を満たすことが求められます。社内で適切な手続を進めるのが難しい場合は、企業法務に精通した弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談することにより、以下のようなメリットが期待できます。

  • 在籍出向(従業員シェア)の包括的承諾があると認められるための就業規則の整備を依頼できる
  • 会社の出向命令権があることを示す労働契約を整備してもらえる
  • 出向先である受け入れ先会社との労働条件等の交渉を依頼できる
  • 不当な条件による出向にならないように事前に従業員シェアの個別の内容をチェックしてもらえる
  • 従業員シェア後の責任の所在を明確にしてもらえる
  • 労使間トラブルが発生した場合の対応を依頼できる

まとめ

今回は、従業員シェアの定義、従業員シェアを導入している企業の事例、従業員シェアのメリットとデメリット、従業員シェアに関する法的リスクと課題などについて解説しました。

従業員シェアの制度を有効に活用するためには、事前の契約内容の整備、会社間の合意、出向する従業員への説明など、入念な準備が求められます。法律上の問題に関して不安がある場合は、企業法務に精通した弁護士に相談するとよいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づき、各企業の状況や方針に合ったサポートを提供しております。従業員シェア実施時の契約内容のリーガルチェック、出向先会社との交渉などにも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士藤川 新 東京弁護士会
【得意分野】 一般民事事件(離婚、各種損害賠償請求等) 刑事事件 一般企業法務