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弁護士 橋本 大輔

会社が労働審判の申立てを受けた際の対応方法と注意点を解説

個別労働紛争を迅速に解決することを目的とした労働審判制度は、労働者側と使用者側の双方の負担を軽減する非訟手続ですが、基本的には労働者の保護を目的としているため、労働者にとって有利で使用者である企業には不利な制度だといわれています。

東京大学社会科学研究所が2008年に実施した「労働審判利用者調査」によると、労働者側は、「とても満足している」(25.3%)、「少し満足している」(33.8%)と半数以上が満足しているという回答だったのに対し、使用者側の回答は「とても満足している」(12.8%)、「少し満足している」(22.9%)と労働者側の満足度を大きく下回っています。

従業員や元従業員から労働審判の申立てを受けた際、できるかぎり会社側が不利にならないような対応をしたいけれど、具体的にどのように対応すればよいかわからないという方は多くいらっしゃるかと思います。

そこで今回は、労働審判の特徴や流れ、会社側が受けるダメージを最低限に抑えるためのポイント、具体的な事例のケーススタディ、よくある質問と回答などについて解説します。

労働審判制度の概要と最近の傾向

1.労働審判制度とは

労働審判制度は、使用者と労働者の間の個別の労働トラブルを迅速かつ柔軟に解決することを目的とした非訟手続です。1999年に開始された司法制度改革の流れの中で、当時増加していた個別労働民事紛争を迅速に解決するために創設されました。2004年に手続法として労働審判法が成立し、2006年から労働審判制度がスタートしました。

労働審判では、原則として3回以内の期日で調停という形で和解による解決を試み、調停が成立しない場合は適切な解決を図るための審判が行われます。調停と審判は、労働審判官と呼ばれる裁判官と労働審判員と呼ばれる労働問題に関する専門知識と経験を持つ民間人2名により構成された労働審判委員会が、当事者から提出された申立書、答弁書、証拠について法的妥当性を判断した上で行われます。

2.典型的な事例と最近の傾向

労働審判の対象となる典型的な事例は懲戒処分、整理解雇(リストラ)、減給、残業代未払い、退職金未払いなど、金銭的なトラブルです。最近では、職場でのパワハラやいじめによりうつ病を発症したり、セクハラの被害を受けたりしたなどの理由で慰謝料を請求するケースも増えています。

労働審判の流れ

会社側は裁判所から呼出状が送られてきて初めて労働審判の申立てを受けたことを知るケースが多いです。労働審判の申立てを受けた場合の流れについて、時系列で説明します。

1.答弁書の作成と第1回期日の準備

裁判所から呼出状が送られてきたら、まず第1回の期日と答弁書の提出期限を確認しましょう。労働審判規則第13 条で、原則として労働審判手続の申立てがされた日から40日以内に第1回期日を指定しなければならないと定められているため、第1回期日は40日以内、答弁書の提出期限は通常、第1回期日の約1週間前となります。

期日までに、労働審判規則第16 条1項で定められた以下の書類を準備しなければなりません。

一 申立ての趣旨に対する答弁
二 第九条第一項の申立書に記載された事実に対する認否
三 答弁を理由づける具体的な事実
四 予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
五 予想される争点ごとの証拠
六 当事者間においてされた交渉(あっせんその他の手続においてされたものを含む。)その他の申立てに至る経緯の概要

上記の答弁書や証拠書類は期日内に裁判所に提出し、申立てをした労働者側にも郵送する必要があります。

2.第1回期日

第1回期日では、主に争点や証拠の確認が行われます。労働審判官や労働審判員からの質問に対して、労働者側と使用者側の双方が口頭で回答するという形式で行われ、所要時間は通常2時間程度です。
争点や証拠について双方の理解に相違がある場合は確認のための質疑応答が行われ、第2回期日までに補充書面や追加の証拠の提出が求められます。

争点や証拠の確認がスムーズに行われた場合、第一回期日で調停まで進むこともあります
また、第1回期日で、労働審判委員会が労働審判での適切な解決が見込めないと判断した場合、労働審判法第24条に基づき終了となるケースもあります。

3.第2回期日

第2回期日は、通常、第1回期日の2~3週間後に行われます。第2回期日では、第1回期日で確認された事実や証拠に加え、新たに提出された補充書面や追加の証拠をもとに調停に向けた話し合いを行います。

争点や証拠について依然として双方の理解に相違があり、調停が難しいと判断された場合、第3回期日までにさらなる補充書面や追加の証拠の提出が求められる場合もあります。

4.第3回期日

第3回期日は、通常は第2回期日の2~3週間後に行われます。第2回までに確認された事実や証拠に基づいた労働審判委員会の判断により、調停案が提示され、話し合いが行われます。労働者と使用者の双方が調停案に合意した場合は、調停が成立します。その場合、後日、裁判所が作成した調停調書が届けられ、手続は終了します。どちらかが合意できなかった場合は、労働審判委員会が労働審判と呼ばれる判断を下します。

どちらかが労働審判の内容に納得できない場合、裁判所に異議を申し立て、通常訴訟で争うことになります。

労働審判の解決までの期間

厚生労働省が発表した資料によると、労働審判事件の審理期間の平均は約80日(1ヵ月半弱)で、約7割が調停で解決されているとのこと。

第1回期日で双方の合意の上で調停が成立した場合は約40日で解決することになります。

ただし、セクハラやパワハラなどのハラスメント、うつ病などのメンタルヘルスなどに関する事案の場合、双方の認識のズレが大きいケースも多く、審理期間が長引く傾向があります。

また、3回の期日内に調停が成立することなく労働審判が下され、その内容に対してどちらかが異議を申立てた場合、通常訴訟で争うことになるため、紛争が長期化することも珍しくありません。

会社側からみた労働審判制度のメリット・デメリット

1.メリットは早期解決が可能なこと

労働審判の最大の特徴は労働者と使用者の間の問題を早期解決できることです。早期解決の目的は、労働者の生活の基盤を保護するためですが、使用者である企業側にとっても、早く解決できることは大きなメリットがあります。労働問題を訴訟で争う場合、1年以上の長い期間がかかることも珍しくありませんが、訴訟が長引く分、関係者の負担は大きくなります。労働審判なら、1ヵ月半以内に解決できる場合も多いため、会社側としても負担を軽減できるのです。

2.最大のデメリットは準備期間が短いこと

前述の通り、労働審判は申立ての日から40日以内に第1回期日が設定され、申立てを受けた側は、第1回期日の約1週間前までに答弁書や証拠を提出する必要があります。そのため、申立てをする労働者には十分な準備を行う時間的な余裕がありますが、申立てをされる使用者側は答弁書や証拠を準備するための時間は約1ヵ月程度という短い期間に限られています。その期間に、答弁書を作成し、必要な証拠を集め、出頭者を決め、第1回期日の準備を行わなければなりません。

使用者側である企業は、裁判所から送られてきた呼出状を受け取って初めて労働審判の申立てを知るケースも多いため、期日までに答弁書や証拠を揃えて、万全な準備をするのは非常に大変です。

会社側が受けるダメージを軽減するためのポイント

1.労働審判で解決可能かの判断が大切

労働審判は双方が合意の上で早期に調停が成立すれば、迅速な解決となり、双方にとって負担が少ないというメリットがありますが、双方の認識に大きなズレがある場合、労働審判が下され、その内容に納得できなければ異議の申立てが行われて訴訟に移行し、紛争が長期化するというリスクが出てきます。

そのような事態に陥らないためにも、最初に労働審判申立書を受け取った時点で、労働審判手続で解決すべき事案なのか、時間と費用をかけてでも訴訟で戦うべき事案なのかを十分に検討して、適切な判断をすることが大切です。

2.答弁書と証拠の準備は万全に

答弁書は労働審判委員会の心証形成に影響を与える非常に大切な書類なので、重要なポイントをおさえて記載しましょう。まず、労働者側からの申立書と証拠を確認した上で、申立書に記載された事実の一つひとつに対して、認める・認めない(否認)・不知(知らない)の3つのうちいずれかを記載します。民事訴訟規則第79条3項で、相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならないと定められているため、否認する場合はその理由を簡潔に記載する必要があります。その理由を裏付ける証拠となる書類がある場合は証拠書類として提出します。

また、労働者側から提示された資料に時系列表が含まれていなかった場合、労働審判委員会がスムーズに事実関係を理解できるように事実を時系列で簡潔にまとめた時系列表を作成することをおすすめします。

3.第1回期日の出席者の選定も重要

労働審判では、通常、第1回期日の前半で事実関係の確認が行われます。そのため、企業側に有利な心証形成のためには、第1回期日の出席者の選定は非常に重要です。会社によって有利な証言をできる関係者がいる場合は、第1回期日に出席させましょう。特にそのような人人がいない場合、一般的に、代表取締役や直属の上司、人事部の担当者等が出席することとなります。

出席者は、質問を十分に理解した上で冷静かつ誠実に回答することが大切です。元社員からの申立ての内容に憤りを感じている場合もあるかもしれませんが、決して感情的になってはいけません。また、自分が知らないことを質問された際は、憶測で回答をすると予期せぬ不利益を受ける場合がありますので、知らないことは「わかりません」、「知りません」と素直に発言することも時には大切です。出席者は事前に答弁書や証拠書類に目を通して、質問の内容を想定しておくなどの準備をするとよいでしょう。

必要な費用や解決金の相場

1.労働審判に必要な費用

労働審判の手続費用は申立てした側が収入印紙を申立書に貼付する形で負担します。基本的に申立てをされた側の費用負担はありません。ただし、弁護士を依頼する場合は、弁護士費用がかかります。
労働審判にかかる弁護士費用は法律事務所ごとに異なります。

2.解決金の相場

労働審判で提示される解決金の金額は、各事案の内容、労働者の在職期間、企業の経済状況など、様々な点を考慮して判断されるため、各事案によって大きく異なります。

厚生労働省が公開している「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の参考資料によると、労働審判の解決金の中央値は110万円、月収換算すると約4.4ヵ月分で、最も多いのは月額賃金相当額の6ヵ月分以上9ヵ月分未満とのことです。

労働審判のケーススタディ

1.解雇の有効性を争うケース

労働審判の中でも特に多いのが、懲戒解雇や整理解雇(リストラ)に関する事案です。
勤務態度や能力などに問題があるという理由で懲戒解雇されたり、リストラされたりした元社員が解雇は不当だと訴えることを地位確認請求といいます。地位確認請求では、解雇事由が客観的にみて合理的であるということを使用者側が立証する必要があります

懲戒解雇の場合は、業務に支障が出たり企業が損害を被ったりする程の不良行為があったという客観的な事実を証明しなければなりません。就業規則に規定されている解雇事由に該当するかという点も重要な判断材料となるので確認しておきましょう。
会社都合による整理解雇の場合は、人員削減の必要性、削減を避けるための努力の有無、本人への事前の通知や話し合いの有無などが厳しく問われます。

また、労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇する際、原則として30日以上前に解雇する旨を労働者に予告する必要があり、予告がなかった場合は解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う義務が生じると定められています。解雇予告手当が必要なのに、支払われていないケースでは、解雇予告手当の支払いも求められます。

2.有期雇用の雇止め

契約社員などの有期雇用の従業員の雇用契約を更新せずに契約期間満了を理由に契約を終了する雇止めに関する事案も労働審判で争われる典型的な事例の一つです。
厚生労働省が、雇止めに関するトラブル防止を目的として公開している「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」というリーフレットにおいては、使用者は、有期契約労働者と契約を締結する際、更新の有無や更新の判断基準を明示しなければならない旨が記載されています。

また、3回以上の更新または1年以上の継続がある有期労働契約を更新しない場合は、契約期間満了の30日前までに本人に予告する必要があるとのことです。労働審判では、使用者がそのような規則を遵守していたか確認されますので、雇用時の契約書の内容を把握しておきましょう。

また、2012年8月に成立した改正労働契約法では、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、無期雇用に転換される無期転換ルールと呼ばれる規定が新設されましたので、該当する場合はその点も留意する必要があります。

3.セクハラやパワハラの場合

最近は、セクハラやパワハラなどに関する労働審判も増えています。この場合、実際にセクハラやパワハラの事実があったのかどうかが主な争点となります。
セクハラやパワハラの事実を立証する責任は労働者側にありますが、企業側としては、労働者側が主張する事実に反する証拠や業務との関連性を否定できるような材料を集めたりなどの準備をすることが必要となります。
申立人が在職中にセクハラやパワハラの被害を会社に報告していたにも関わらず放置していた場合、労働者を安全に働かせるための安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。

よくある質問と回答

労働審判に関するよくある質問と質問に対する回答をご紹介します。

1.日程変更や欠席について

やむを得ない事情により答弁書や証拠書類が期日内に提出できない場合や第1回期日に出席できない場合は、最低でも1週間前までに労働審判委員会に連絡してください。
連絡が直前になってしまうと、労働審判委員会の事前準備に支障を与える可能性もありますので、できるかぎり早く連絡することが大切です。

また、労働審判の申立てを受けた企業側が裁判所の呼出状を無視して正当な理由なく欠席した場合、労働審判法第31条の規定により5万円以下の過料に処せられます。

2.弁護士の必要性

労働審判は、一般的には双方に弁護士がつくケースが多いですが、弁護士をつけることが義務付けられているわけではありません。

ただし、労働審判では第1回期日までの限られた時間内に申立人の主張に反論するための答弁書を作成し、必要な証拠を集めなければならないため、弁護士をつけないと非常に不利な状況に陥る可能性もあるので注意が必要です。

3.調停を無視した場合

調停が成立した場合に決定を無視して解決金を支払わないと強制執行を受ける可能性があります。民事調停法第16条では、調停は裁判上の和解と同一の効力を有すると規定されており、労働審判法第29条2項で、民事調停法第16条の規定を労働審判事件に準用すると定められています。

労働審判を未然に防ぐための対策

労働審判で争われる事案の多くは本来、企業内で解決するべき問題です。
元従業員から労働審判を申し立てられた場合、会社の労務管理体制や安全配慮義務への配慮に問題があるというケースもありますので、労働審判を終えた後は再発防止策を検討しましょう。
残業代や不当解雇を巡る問題で労働審判を申し立てられた場合、就業規則や雇用契約書のリーガルチェックを行うことも大切です。

また、近年増加傾向にあるパワハラについては、2018年11月に厚生労働省が、企業によるパワハラ防止の取り組みを法律で義務付ける方針を発表しています。コンプライアンス対策として内部通報システムの導入などを検討してもよいでしょう。

まとめ

今回は、労働審判の特徴や流れ、会社側が受けるダメージを最低限に抑えるためのポイントなどについて解説しました。

労働審判の申立てを受けた際は、第1回期日までの限られた時間内に申立人の主張に対して適切な反論ができるよう必要な証拠を集めるなどの適切な準備を迅速に行うことが大切です。

企業側にとって不利な結果となることを避けるためにも、労働紛争の豊富な実績を持つ弁護士に早めに相談して万全な準備をすることをおすすめします。

弁護士橋本 大輔 東京弁護士会
2013年慶応義塾大学卒。2014年司法試験予備試験合格。2015年司法試験合格。2016年弁護士登録。特に会社法・知的財産権・労務・事業再生等に明るく、企業法務案件全般に取り組んでいる。