人事・労務CATEGORY
人事・労務
弁護士 高島 宏彰

内部通報制度とパワハラ対策義務化の対応フロー|中小企業の注意点も

健全な経営体制の構築を目的として、内部通報制度を導入する企業が増えています。しかし、内部通報制度を導入したものの、運用に苦慮している企業は少なくありません。特に、パワハラ、セクハラ、マタハラ等のハラスメントについては対応が難しくなりがちです。

内部通報制度の運用や法規制による要請への対応など、企業に求められるハラスメント対応は多岐に渡ります。

そこで今回は、内部通報制度の対応フローや、ハラスメントに対して企業がどのように対策を講じるべきかについて解説します。

内部通報制度とは

「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査」によると、企業や組織の不正や不祥事が発覚する端緒として、内部通報が約60%と最多となり、続く内部監査(約37%)、上司によるチェック(約31%)に比して、大きな割合を占めています。そして、内部通報に寄せられた通報内容としては、パワハラ、セクハラなどの職場環境を妨害する行為が55%と最も高くなっています。このように、実態調査の結果からも内部通報制度におけるハラスメント対応がいかに重要であるかが浮き彫りとなっています。

1.内部通報制度の概要

内部通報制度は、企業や組織の中の不正行為の早期発見・是正を目的として、企業や組織が報告のルートを設けて、従業員等からの不正行為の報告を受け付ける制度です。

通常、企業内で問題が起きると、従業員が上司に報告し、上司がさらに上位の役職者に報告するルートを取りますが、上司や経営者が不正行為に関与しているケースでは問題の発見や是正が機能しません。そのため、内部通報窓口として別途報告ルートを設けることで、不正や不祥事を早期に発見・是正してコンプライアンスを図ることができます。また、内部通報制度の設置は企業の義務ではありませんが、企業内の問題が警察や外部組織に流出するリスクが低下するため、企業の自浄作用の向上と企業防衛にもつながります。

2.内部告発との違い

内部告発は、従業員等が、企業や組織の不正行為の情報を、マスコミや消費者団体、行政や司法機関などの外部に報告・提供することをいいます。
不正の報告という点で内部通報制度と共通しますが、内部通報制度は企業が設置する通報窓口に報告するのに対し、内部告発は外部に報告する点で異なります。

内部通報の場合は、報告を受けて企業内で調査、対応することが可能ですが、内部告発の場合は最初から問題が外部に露呈するため、企業内での解決が難しくなります。内部告発は、企業に与えるインパクトが大きく、不正の是正を図る機会を得る前に企業の存続そのものが危うくなるリスクがあります。それだけに、企業の自浄作用を高めるためにも、内部通報制度の体制を取っておくことが重要になります。

3.公益通報制度との違い

内部通報制度に関連して、「公益通報者保護制度」について耳にした方もいるかもしれません。
公益通報とは、従業員等が、企業が「国民の生命、身体、財産等の保護にかかわる法律」に違反している場合に、企業内部、行政機関、被害防止に必要な外部事業者に報告することをいいます。企業の内部通報制度は、この公益通報を支える企業内での仕組みとして機能するものです。内部通報制度によって通報を受けた内容が公益通報にあたれば、「公益通報者保護法」によって通報をした従業員は保護され、通報者を解雇等の不利益な扱いをすることが禁止されます。

公益通報は、通報の対象が特定の法律に違反する犯罪行為に限定されているため、対象ではない法律に違反する事実を通報しても公益通報にはあたりません。そのため、社内の内部通報制度によって通報された内容が全て公益通報として公益通報者保護法によって保護されるわけではありませんので、企業としては、消費者庁が公開している「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を踏まえて、通報者の保護を図りながら、問題を早期発見し、適切な調査によって、問題の是正や再発防止策などを行う仕組作りが必要となります。

内部通報制度がパワハラ対策義務化に有効な理由

令和元年に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(労働施策総合推進法)が改正され、これにより、パワハラが定義づけられるとともに、企業にパワハラ対応が義務付けられたことから、パワハラ防止法とも呼ばれています。大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年3月31日までの間は努力義務として施行されます。

パワハラ防止法により、企業は、パワーハラスメントの防止のための雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられ、厚生労働大臣の指針ではパワハラ予防のためのルール制定(パワハラの内容、パワハラを行ってはならない旨の方針、パワハラ行為者には厳正に対処する旨の方針等の明確化)や相談窓口の設置とその周知を図ること、パワハラ発生の際は調査や迅速な対応を行うことが求められます。併せて、相談者・行為者等のプライバシー保護のための必要な措置、相談したことを理由とする解雇等の不利益取扱いがされない旨を定め、その周知・啓発を図ることへの取り組みが求められています。違反企業に対しては、厚生労働大臣が助言、指導又は勧告ができ(同法第33条1項)、勧告に従わない企業は公表されうること(同条2項)、また、企業にパワハラ奉仕のための必要な措置に関し報告を求めることができ、報告をしない又は虚偽の報告をすると二十万円以下の過料に処せられる可能性もあること(同法第41条)から、違反した場合の企業イメージや評判の低下は免れません。

こうした対応の一環として、内部通報制度の導入は有効です。内部通報制度は、パワハラ防止法が求めるパワハラ予防に必要な体制構築に適う上、実際に相談があった場合には早期に是正を図ることができ、同法が求めるパワハラへの対応にも役立つからです。
また、パワハラ防止法に基づくパワハラ対策だけではなく、企業には男女雇用機会均等法に基づくセクシャルハラスメント(セクハラ)対策、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法に基づくマタニティーハラスメント(マタハラ)対策が求められています。ハラスメントごとに窓口を設けると、企業の負担が大きくなるうえ、重複する問題への対応が遅れるなどの問題も生じかねません。そこで、内部通報制度によって一元的に対応できる包括的な相談窓口を設けることで、企業の負担軽減と早期対応に役立つというメリットも期待できます。

消費者庁のガイドラインから押さえておくべき5つのポイント

内部通報制度を導入する際は、消費者庁のガイドラインに基づき、以下の5つのポイントをおさえましょう。

1.通報窓口や利用者の拡充など仕組み整備の対応

内部通報制度を導入する際は、まずは通報窓口を設置し、受付の方法を明確に定め、経営幹部及び従業員に十分かつ継続的に周知することが重要です。
ガイドラインでは、通報しやすい環境を確保するために、通報窓口を「法律事務所や民間の専門機関等に委託する等、事業者の外部に設置すること」「労働組合を通報窓口とすること」「グループ企業共通の窓口を設置すること」「事業者団体や同業者組合等の関係事業者共通の窓口を設置すること」などの指針が示されています。企業で既に「パワハラ相談窓口」などが設けられている場合は、その窓口を活用しても問題ありません。
また、後述する秘密保持のためにも、通報窓口は専用回線が準備されていることや、他人に知られず相談できるように個室が整備されていることなどが必要です。

2.通報者の秘密保持

通報者の秘密を保持し、安心して通報できる体制を構築することは、内部通報制度の最も重要な課題の一つです。
ガイドラインでは、「通報者の所属・氏名等や当該事案が通報を端緒とするものであること等、通報者の特定につながり得る情報は、通報者の書面や電子メール等による明示の同意がない限り、情報共有が許される範囲外には開示しない」とされており、通報者の氏名の秘密、通報の存在自体の秘密の両方が求められます。

3.経営陣から独立した通報ルート整備の対応

コンサルタント会社の調査によると、企業の不正の約1割は役員や経営者によるとされています(デロイトトーマツコンサルティング「企業の不正リスク実態調査(2016)」)。
役員や経営者など経営陣による不正も、従業員が安心して通報できるように、通報ルートは役員から独立して確保されなければなりません。ガイドラインでも「通常の通報対応の仕組みのほか、例えば、社外取締役や監査役等への通報ルート等、経営幹部からも独立性を有する通報受付・調査是正の仕組みを整備することが適当である。」とされています。

4.通報への対応

会社の不正に関する通報があった際は、調査の必要性を検討し、必要な場合は早急に調査を行います。ガイドラインでは、迅速な対応とともに、実効性の高い内部通報制度の運用のために「担当者の誠実・公正な取組と知識・スキルの向上が重要であるため、必要な能力・適性を有する担当者を配置するとともに、十分な教育・研修を行うことが必要」として、調査の検討や実施にあたる担当者について専門性の確保が要請されています。社内の対応が難しい場合は、弁護士など専門家に助言や対応を要請することも検討しましょう。

5.安心して利用できる環境整備の対応

上述のように、内部通報制度でも公益通報制度と同様に、通報によって不利益な扱いをすることは認められません。通報者自身も、通報により解雇や降格、異動などの不利益な扱いを受けるかが懸念事項となっており、消費者庁の調査では約7割の従業員が不安を感じていると言われています。

従業員が安心して利用できる環境整備の一環として、内部通報の規程に、通報者に対する不利益な取扱いをしないこと、匿名性を確保することを記載しておく必要があります。

内部通報制度は社内にすべきか外部にすべきか

平成28年12月、消費者庁の「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が改正され、内部通報の窓口を社内だけでなく、企業から独立した外部窓口を設けることが適当であるとされました

社内の窓口だけにすると、通報者の匿名性の確保や経営陣からの独立性、調査の公正さといった点で従業員が不信や不満を抱きやすく、通報を調査判断する専門家の整備が困難といった問題点があります。これにより、従業員が直接マスコミや外部組織に内部告発等をする可能性があり、不正を社内で正す前に問題が外部に露呈して企業経営そのものを危うくする恐れも否定できません。

他方で、社外の窓口だけにすると、秘密保持や経営陣からの独立性についての安心感が持てる反面、社内規範や業界独自のルール等に関する社外担当者の理解度が低いという問題点があります。また、社外担当者が通報者に連絡することで通報の事実が露見する可能性もあります。

そのような点を考慮すると、内部通報窓口は、社内と社外の双方に設置することが最適と言えます。消費者庁の調査でも、社内窓口・社外窓口を併用する企業が過半数を超える結果になっています(平成28年度 上場企業・非上場企業計1万5千社に対する調査)。また同調査では、社内窓口は総務部、法務・コンプライアンス部に設置するケースが多く、社外窓口は法律事務所に依頼するケースが過半数を超えています。

ただし、顧問弁護士に依頼する場合は、実際に問題が生じた場合に、弁護士は内部通報に対して公正に対応しなければならない一方で、顧問先企業の利益を守る要請もあることから、利益相反の問題が生じる可能性があります。上記ガイドラインでも、中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や民間の専門機関等の起用は避けることが必要であるとしており、内部通報窓口を顧問弁護士の法律事務所に依頼する場合は、実際に問題になった際に外部の弁護士に依頼できる体制を整えて置く等、対応を検討しておきましょう。

内部通報制度の対応フロー

内部通報制度を利用し、窓口に通報があった場合は主に以下のフローで対応することになります。

1.通報者への受領通知

従業員が通報してくる方法として、電話、メール、書面送付、面談の申し込みなどがあります。メールや書面で通報された場合は、まず通報者に対して通報を受領した旨を通知します。

2.通報内容の確認

通報内容を確認し、調査すべきか否かを判断し、その結果を通報者に通知します。判断に必要以上の時間がかかる、検討が不十分なまま調査不要と判断する等の場合、通報者が不信感を抱いて外部に通報し、問題が大きくなるリスクがあるので、慎重かつ早急な対応が求められます。

3.調査の実施

通報内容を調査した結果、調査が必要と判断された場合、通報された内容の事実や被害などを調査します。調査に際しては、定期検査と同時に行う、抜き打ちを装う、別の部署も一緒に調査するなどの対応を取り、通報者が特定されないように注意が必要です。

4.不正の是正

調査により、不正な事実が判明した場合は、是正措置や再発防止の対応を取ると同時に、不正をした本人に対する処分を行います。本人に対する処分は、不正の内容と就業規則の処分などを勘案し、適正な処分を下すことが重要です。また、通報者が希望する場合は、不正の事実や処分の内容を伝えることが求められることもあります。

内部通報制度で認証制度を導入するメリット

内部通報制度認証(WCMS認証)とは、適切に内部通報制度を整備し、運用している企業を評価する制度です。現在は、事業者自らが認証基準に照らして自身の内部通報制度を自己審査し、事業者から申請を受けた指定登録機関が事業者の確認の結果を登録するという自己適合宣言制度が導入されており、今後、第三者機関が評価する制度の導入も予定されています。

認証を受けることで、企業が内部通報制度を導入して活用し、コンプライアンスを遵守した優れた経営体制を整えているという企業イメージの向上につながります。また、認証取得企業が一般ユーザーからも評価されることで、企業価値の向上を図り、優秀な人材を獲得しやすくなるなどのメリットも期待されています。認証を受けることにより信頼性が高まるため、実際に問題が発生した場合にも、関係当局による調査や責任の追及に際して企業が有利に考慮されるとも言われています。

弁護士に内部通報制度導入を相談・依頼するメリットデメリット

内部通報制度の導入に際して弁護士に相談するメリット、デメリットとして、次のようなものがあげられます。

1.弁護士に相談・依頼するメリット

内部通報制度については、制度導入の際の構築から、実際の運用に際しても、専門家のサポートが重要です。特に、通報があった場合の調査の要否の判断については、ガイドラインでも専門家のサポートを受けることが求められています。弁護士に相談すれば、通報内容に関する対応について幅広いアドバイスを受けることができます。また、社外窓口の対応を任せることも可能です。社内に法務部門がある場合でも、上述のように内部通報制度では外部窓口が求められるケースは少なくありません。いざというときに対応が遅れて問題が拡大することを防ぐためにも、企業法務に強い弁護士に相談しておくメリットは大きいと言えるでしょう。

2.弁護士に相談・依頼するデメリット

内部通報制度を弁護士に相談・依頼するデメリットは、相談費用がかかることです。弁護士に法律相談を依頼した場合の相談料の相場は1時間1万円程度です。また、内部通報制度の外部窓口を依頼する場合は、継続的な弁護士費用がかかることが想定されます。内部通報制度で個別に対応を依頼する場合は別途費用がかかるケースも多いです。まずは企業法務に強く信頼できる弁護士かを見極め、弁護士費用の見積もりを出してもらうことをお勧めします。

まとめ

今回は、内部通報制度について、対応フローやパワハラ防止法との関係も含めて解説しました。

内部通報制度の対策が不十分だと、社内の自浄作用が機能せず、不祥事が外部に漏洩して会社の経営基盤を揺るがす事態にもなりかねません。
このような事態を防止するためには、専門家である弁護士のサポートを利用して事前に内部通報制度の体制を整え、いざというときに備えるとともに、万が一の場合に弁護士に相談できる体制を取っておくことが安心につながります。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業のニーズに合わせた内部通報制度についてのアドバイスを行っております。公益通報制度の対応やトラブルが生じた際の対応等の全面的なサポートも可能です。内部通報制度をはじめとする相談がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。

弁護士高島 宏彰 第二東京弁護士会
2012年筑波大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。BtoC、CtoC取引等の法分野(消費者契約法・特定商取引法・資金決済法等)に明るく、企業法務全般に取り組んでいる。