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投稿日: 弁護士 中村 望

嘱託社員を定年後再雇用する際の法律上の注意点

定年を迎えた従業員を嘱託社員として再雇用することは、企業と従業員の双方にとってメリットが多い一方で、給料や業務内容をどのように決めるべきか判断が難しいという問題点もあります。

今回は、嘱託社員と正社員・契約社員との違い、定年後再雇用のメリットとデメリット、嘱託社員の労働条件の基本原則、嘱託社員の給料及び業務内容に関する注意点、嘱託社員の雇用契約期間に関する注意点などについて解説します。

嘱託社員とは

「嘱託」という言葉自体は、医師・弁護士・システムエンジニア・デザイナーのように専門的な知識・技能を有する者に特定の業務を依頼する場合にも用いられますが、広い意味では企業が有期雇用契約で契約した従業員を指して用いられています。狭い意味では、定年退職後に再雇用した従業員の雇用形態を意味することもあります。
嘱託社員という雇用形態については法律上の定義がなく、具体的な労働条件は雇用主の企業によって異なります。

嘱託社員と正社員・契約社員との違い

1.正社員との違い

正社員と嘱託社員では、雇用契約の期間の有無に明確な違いがあります。正社員(正規社員)は、労働期間の期限の定めがない労働契約(労働基準法第14条1項)に基づいて就業する従業員であるのに対して、嘱託社員は5年以下の有期雇用契約(同法第14条1項2号)に基づいて就業する従業員です。
また、就業時間についても、法律では画定されていないものの正社員は原則として勤務する企業が定めた始業時間から終業時間までフルタイムで労働することが勤務の条件となっているのに対して、嘱託社員の終業時間はそれより短いパートタイムであることが多いです。休暇等の福利厚生制度についても、待遇の区別を定める法制度はないものの、正社員に比べると嘱託社員は限定されていることが多いです。

2.契約社員との違い

契約社員と嘱託社員は、有期雇用契約に基づいて就業する従業員である点で共通しています。それ以外の雇用形態や条件については法律的な区別はなく、事実上、定年退職後に有期雇用契約で再雇用される場合を嘱託社員、それ以外の有期雇用契約で就業する従業員を契約社員と呼んでいるケースが多いです。
就業時間についても法律的な区別はないため会社によって取り扱いが異なりますが、契約社員は正社員と同様のフルタイム勤務であることが多い点が事実上の差異となっていることもあります。

定年後再雇用のメリットとデメリット

定年を迎えた従業員を嘱託社員として再雇用することは、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。雇用主と被用者の双方からみたメリットとデメリットについて説明します。

1.雇用主側のメリットとデメリット

企業が嘱託社員を採用する場合、新たに正社員を募集する場合と比べて以下のようなメリットがあります。

  • その人の有する能力や業務経験を把握していること
  • 業務経験や既存の人脈を活用してもらえる点で高い生産性が期待できること
  • 給与等の人件費を抑えることができる上に教育コストもかからないこと

反面、デメリットとしては以下のような点が挙げられます。

  • 有期雇用契約に基づくため、契約期間が終わるたびに再更新する必要があり、事務的な手間がかかること
  • 年齢や雇用形態を考慮すると、正社員と同等の責任の重い仕事を任せることは難しいこと
  • 年長者でその企業における業績のある嘱託社員に対して労働意欲を下げないための配慮が必要であること

2021年4月から全企業を対象として「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(働き方改革関連法)が施行されたことに伴い、同一労働同一賃金の原則を定める改正後の「パートタイム・有期雇用労働法」(旧パートタイム労働法)が施行されました。この原則に対する罰則は設けられていませんが、嘱託社員に対しても適用されるため、正社員と同等の業務を任せることに対しては以前に増して配慮が必要となります。

2.被用者側のメリットとデメリット

被用者側も、長期間就労していた企業に再雇用されることで、全く別の仕事に応募する場合と比べて、業務への適合性や人間関係構築等の不安材料が非常に少ないという大きなメリットがあります。
他方、正社員時代に管理職として働いていた人が嘱託社員として再雇用された場合、立場上かつての部下等の年少の正社員から指示を受けることがあるため、不満を持つことになりやすいというデメリットもあります。

嘱託社員の労働条件の基本原則

企業は、2013年に改正された高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高齢者雇用安定法)に基づく以下のような基本原則に従って、嘱託社員の労働条件を定めることが求められます。

1.希望者全員に65歳まで雇用の機会を与える

現在の高齢者雇用安定法は、同法第7条が定める船員・国家公務員及び地方公務員を除き、従業員を雇用する全ての企業に対して、原則として希望者全員に65歳までの雇用の機会を与えることを義務付けています(同法第9条)。
65歳までの雇用の機会を与える方法として、以下の3つの方法があります。

  • 定年の65歳までの引き上げ(同法第9条1項1号)
  • 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入
  • 「定年の定めの廃止」(同法第9条1項3号)

多くの企業は、定年を60歳とした上で継続雇用制度を設けることにより対応しています。
この義務に対して罰則は定められていませんが、義務に違反するとハローワークから指導・勧告を受けたり、さらに従わなければ企業名を公表されたりする可能性があります(同法第10条各項)。

2.労働条件は正社員と同じでなくてもよい

嘱託社員の業務内容、給料、勤務日数等の労働条件については、高齢者雇用安定法上、正社員と同じであることは求められていません

厚生労働省も、公式サイト上の「高年齢者雇用安定法Q&A」において「週3日勤務でおおむね2人で1人分の業務を担当するという雇用形態」が継続雇用制度として認められるかという質問に対する回答の中で、以下の判断を示しています。
“その雇用形態が高年齢者の継続的雇用を確保するという趣旨に沿ったものであり、事業主の合理的な裁量の範囲の条件であればこのような雇用形態は差し支えない”

3.有期雇用とする場合は正社員と比較して不合理な労働条件が禁止される

上記のように業務内容や給料、勤務日数等の労働条件については正社員と同等でなくても差し支えないとされる一方で、企業が全く自由に労働条件を定めることはできません。
前述した働き方改革関連法に基づき改正されたパートタイム有期雇用労働法は、正社員と有期雇用労働者の間で不合理な待遇格差を設けることを禁止し(同法第8条)、また正社員と職務内容や人事異動の範囲が同じ有期雇用労働者について、有期雇用労働者であることを理由とする差別的取扱いを禁止しています(同法第9条)。
これを踏まえて、嘱託社員に対して定める労働条件が正社員と比較して不合理に低いものにならないよう対処する必要があります。最近は、嘱託社員の労働条件が同法及び労働契約法に違反するとして損害賠償を請求する訴訟も起きています。

嘱託社員の給料及び業務内容に関する注意点

嘱託社員の労働条件に関して企業側が注意すべき点としてまず挙げられるのは、嘱託社員の給料と業務内容に関する法律規定や判例の基準です。具体的な注意点について説明します。

1.給料に関する注意点

①有期雇用の場合は正社員と比較して不合理に低い賃金が禁止される

嘱託社員は有期雇用社員であるため、労働条件の一つである賃金に関しては、前述した通り、正社員と比較して不合理に低く定めることはパートタイム有期雇用労働者法第8条及び労働契約法に違反します。

②合理的な範囲で正社員の賃金と差をつけることは可能

他方、パートタイム有期雇用労働者法第8条は、正社員と有期雇用契約社員の労働条件の格差が「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」と規定しています。
この規定から、仕事の内容や責任の程度が正社員と異なる場合に、合理的な範囲で正社員の賃金と嘱託社員の賃金の間に差をつけることは認められているといえます。

③内容・責任が同等である場合でも2割程度までの差は許容される場合がある

また、最近の最高裁判所の裁判例において、嘱託社員の仕事の内容や責任の程度が正社員と変わらない場合であっても、賃金の額のみならずそれ以外の事情も考慮した結果、当該嘱託社員が正社員であった時と比較して年収ベースで2割程度相違があっても不合理な田宮差に当たらず違法ではないと判断されています(最高裁判所判決平成30年6月1日民集 72巻2号202頁)。
なお、この事例では、定年退職後の再雇用時の労働条件について労使間の協議がされていたという事実も踏まえてこの結論に至っています。

また、嘱託社員の仕事の内容や責任の程度が正社員と異なる事例では、当該嘱託社員が正社員であった時と比べて30~40%前後の年収になったとしても違法とはいえないとした地裁判決があります(平成30年1月29日東京地方裁判所立川支部判決労判 1176号5頁)。

④合理的な理由なく手当を支給しないことは禁止される

正社員であった時に比べてある程度の年収減は許容されるとしても、正社員に支給されている手当について、合理的な理由なく嘱託社員に支給しないことは違法とされています
(最高裁判所判決平成30年6月1日民集 72巻2号88頁)。

同判決は、皆勤手当と精勤手当については嘱託社員であっても、これを奨励する必要性は変わらないため、嘱託社員のみ不支給とすることは違法であるとする一方、住宅手当と家族手当については住宅費や家族を扶養するための生活費を補充するための手当であり、嘱託社員に支給しないことは適法であると判示しました。

2.業務内容に関する注意点

嘱託社員の業務内容に関して、高齢者雇用安定法・パートタイム有期雇用労働者法等の法律及び判例の基準に照らして企業側が注意すべき点として、定年前の業務内容と異なる業務内容とすることは許されるが、全く別個の職種とすることは原則として許されないということがあります。

この原則は、定年前に事務職として勤務していた従業員を定年後に再雇用するにあたり、時給1,000円で午前8時~12時の清掃業務に従事することを求めたところ、従業員がこれを拒否したために再雇用されなかったことを違法であるとして従業員側が会社に対して損害賠償請求訴訟を起こした事件で、控訴審の名古屋高等裁判所判決(平成28年9月28日判時 2342号100頁)が判決中で示したものです。その理由としては、従前の雇用の内容と定年後再雇用の内容が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、高年齢者雇用安定法の趣旨に反するということです。同判決では、業務内容に関する原告の主張を認め、被告の企業に対して約127万円の賠償を命じました。

嘱託社員の社会保険に関する注意点

嘱託社員の社会保険に関しては、原則として定年前の正社員であった時と同様に健康保険・介護保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険に加入する必要があるという点に注意が必要です。ただし、就業時間数を一定以下に減らす場合は社会保険の加入対象から外れる場合があります。

1.健康保険

嘱託社員についても75歳までは健康保険に加入することが原則です。ただし、以下の場合は健康保険の加入対象とはなりません(健康保険法第3条9号)。

  • 従業員500名以下の企業において嘱託社員の所定労働時間及び所定労働日数が正社員の所定労働時間・日数の4分の3未満の場合
  • 従業員501名以上の企業において嘱託社員の週の所定労働時間が20時間未満あるいは1か月の所定内給与が88,000円未満の場合

2.介護保険

嘱託社員についても、65歳の誕生日前日までは定年前と同様に2号被保険者(介護保険法第9条2号)として介護保険料を給与から天引きします。ただし、定年後就業時間減少により健康保険の加入対象から外れた時は、65歳の誕生日の前日までは介護保険料の負担はありません。

3.厚生年金保険

嘱託社員についても、70歳の誕生日の前日までは厚生年金保険に加入することが原則です。ただし、定年後就業時間減少により健康保険の加入対象から外れた時は厚生年金の加入対象からも外れます(厚生年金保険法第12条5号)。

4.労災保険

労災保険については、年齢に関わらず嘱託社員も対象となります(労働者災害補償保険法第3条1項:労働者を使用する事業について労災保険の加入義務が存在)。

5.雇用保険

嘱託社員については、64歳になった年の3月までは定年前と同様に雇用保険料を給与から天引きします。ただし、定年後再雇用を期に就業時間を減らして週の所定労働時間が20時間未満となった時はその期間は雇用保険料の負担はありません(雇用保険法第6条1号・2号:31日以上引き続き雇用されることが見込まれるものであり、かつ1週間の所定労働時間が20時間以上である者に対して雇用保険料徴収義務があります)。

嘱託社員の雇用契約期間に関する注意点

嘱託社員の雇用契約期間に関しては、無期転換ルールに注意が必要です。無期転換ルールの概要と、無期転換ルールの特例について説明します。

1.無期転換ルールとは

嘱託社員の雇用契約期間は5年以下の有期雇用契約となります。ただし、有期雇用契約が通算5年を超えて繰り返し更新された場合、従業員の申込みがあれば期間の定めのない雇用契約に転換されるというルールがあります(無期転換ルール:労働契約法第18条1項)。無期転換ルールが適用されると、嘱託社員との雇用契約が期限の定めのない雇用契約となり、雇用者は雇用期間満了を理由に従業員との雇用契約を終了することができなくなります。

2.無期転換ルールの特例認定制度

定年後の再雇用の場合、無期転換ルール特例認定制度を利用し、都道府県労働局の認定を受けることにより、無期転換ルールの適用対象外とすることができます(有期雇用特別措置法第8条)。企業側としては、定年後の嘱託社員再雇用を行うにあたっては「無期転換ルールの特例」制度の認定を受けておくことが望ましいでしょう。
定年後再雇用者についての無期転換ルール特例認定制度を利用するためには、「第二種特定有期雇用労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置」として、以下のいずれかを実施することが求められます。

  • 高年齢者雇用推進者の選任
  • 職業訓練の実施
  • 作業施設・方法の改善
  • 健康管理、安全衛生の配慮
  • 職域の拡大
  • 職業能力を評価する仕組み、資格制度、専門職制度等の整備
  • 職務等の要素を重視する賃金制度の整備
  • 勤務時間制度の弾力化

厚生労働省は、高齢者が働く上での作業環境の改善等を図るために、知識と経験を有している者の中から高年齢者雇用推進者を選任することを推奨しています。

まとめ

今回は、嘱託社員と正社員・契約社員との違い、定年後再雇用のメリットとデメリット、嘱託社員の労働条件の基本原則、嘱託社員の給料及び業務内容に関する注意点、嘱託社員の雇用契約期間に関する注意点などについて解説しました。

定年を迎えた従業員を嘱託社員として再雇用する際は、法律上の注意点を踏まえた上で、給料等の労働条件や業務内容などを慎重に検討することが大切です。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務のスペシャリストが、様々な企業のニーズに合わせたサポートを提供しております。定年後の従業員を再雇用する際の給料や業務内容に関するアドバイスや、無期転換ルール特例認定制度を利用する際の申請のサポート等にも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士中村 望 東京弁護士会
現在弁護士数が増え続けている中で、問題解決のクオリティが非常に重要。依頼者の方からの連絡に迅速に対応したり、何でも気軽に相談できる雰囲気づくりをしたりすることで、依頼者の方との信頼関係を築き、依頼者の方の希望に沿った問題解決をできるように心がけている。