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代表弁護士 中川 浩秀

公正取引するために必要!「下請法」はどのように準拠すればよい?

システム開発の世界では、自社のみで開発リソースを確保するのが困難なことがあります。
その場合、下請事業者を使用することも多々あります。

また、自社が他のベンダーの下請けとなって業務を行うこともあります。
下請企業、そして親事業者となる場合、「下請代金支払遅延等防止法」(以下「下請法」といいます。)という法律を守る必要があります。

では、下請法とは一体どのような法律なのでしょうか?
ここでは、下請法について詳しく解説するとともに、遵守するためのポイントについて紹介します。

下請法とは?

下請法は、「下請代金の支払遅延等を防止することによつて、親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに、下請事業者の利益を保護する」ために制定された法律です(下請法1条参照)。

下請事業者は、どうしても親事業者に対して不利な状況となるものです。
親事業者から仕事をもらっているのに、要求されたことに対して異議を述べるのはどうしても気が引けますよね。

親事業者としては、少しでもコストダウンを図るために、仕事の発注者であるという立場を利用し、下請事業者に対して厳しい要求をするという側面もあります。
これによって下請事業者は不利な立場におかれる可能性もあります。

例として、下請事業者には何の責任もないのに親事業者が発注後に代金の減額を要求することも想定されます。
そこで、下請法は、主に下請事業者の利益保護を目的としています。

下請法は、資本金の額の大小によって「親事業者」と「下請事業者」を区分し、その関係について定義しています(下請法2条7項・8項)。
対象となる取引は、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」があります(下請法2条1項~4項)。

それぞれの取引は、具体的には以下のようなものを指します。

製造委託

物品を販売したり製造を請け負ったりしている事業者が、規格や品質、形状、デザイン、ブランドなどを指定し、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することです。なお、「物品」とは動産のことを意味し、家屋などの建築物は対象に含まれません。

修理委託

物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合にその修理の一部を他の事業者に委託したりすることです。

情報成果物作成委託

ソフトウェアや映像コンテンツ、各種デザインなどの情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を委託することです。情報成果物の代表的な例としてプログラムなどがあり、物品の付属品・内蔵部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般も含みます。

役務提供委託

運送やビルメンテナンスをはじめとして、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託することを指します。建設業を営む事業者が請け負う建設工事については下請法の対象には含まれません。

システム開発を委託する場合には、「情報成果物作成委託」に該当します。
情報成果物作成委託は、大きく3つのタイプに分類されます。

  • まず、情報成果物を業として提供している事業者が、その情報成果物の作成について全部または一部を他の事業者に委託する場合です。ソフトウェアメーカーが、ゲームソフトや汎用アプリケーションソフトの開発をソフトウェアメーカーに委託する場合が該当します。
  • 情報成果物の作成を業として請け負っている事業者が、情報成果物作成の全部または一部を他の事業者に委託する場合です。広告会社がクライアントから受注したCM作成をCM制作会社に委託する場合が該当します。
  • 自社で使用する情報成果物の作成を業として行っている場合、作成の全部または一部を他の事業者に委託する場合です。家電メーカーが内部のシステム部門で作成する自社用経理ソフトの作成の一部を、ソフトウェアメーカーに委託する場合が該当します。

下請法は、トンネル会社への規制を行うことができる点に特徴があります(いわゆる「トンネル会社規制」)。

「トンネル会社規制」とは、下請事業者に業務の委託をする場合に、下請法が適用される事業者が、子会社等を間に通して下請事業者と取引した場合において、一定の条件を満たすことを条件としてその子会社が親事業者とみなされる規制のことをいいます。

親事業者は、下請法の適用を回避するために、様々な手段を講じます。

その一つに、下請法の適用条件となる資本金の額の要件に着目して、資本金の少ない子会社から下請事業者に発注することで、適用を逃れようとするという方法があります。
すなわち、実質的に親事業者が発注者であっても、間に子会社をかませることで下請法を逃れようとするのです。

しかし下請法にはトンネル会社規制が存在します。たとえ資本金の額の少ない子会社を利用したとしても、その子会社が親会社とみなされ、下請法の規定が適用されるのです。
ただし、似たような例として仕事を取り次いだケースにおいては、直接的に取引当事者とはならず、単に契約事務を代行するだけであるため、下請法の対象にはなりません。

下請法で最も肝となる部分は、「買いたたきの防止」にあります。

「買いたたき」とは、発注に際して、発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対し通常支払われる対価に比べて、著しく低い金額を不当に定めることをいいます。
買いたたきは、立場上発注者である親事業者と、受注者となる下請事業者とのパワーバランスの格差が原因で発生しすることが多いです。
買いたたきが発生することで、公正な取引が行われず、法律で対等な立場で取引できる環境を整えているのです。

下請法では、「通常支払われる対価」という言葉が使われていますが、通常支払われる対価とは同種又は類似の給付の内容について実際に行われている取引の価格、すなわち、市価を指し、市価の把握が困難な場合は、それと同種又は類似の給付の内容に係る従来の取引価格のことを指します。

実際にどのようにして買いたたきと判断するかについては、著しく低いかどうかという価格水準や、下請事業者と十分な協議が行われたかのか、不当に定めていないかどうかという下請代金の額の決定方法や対価が差別的であるかどうかなどの決定方法などを総合的に考慮して、ケースバイケースで判断することになります。

買いたたき以外にも、下請法では「下請代金の減額」に対しても下請事業者を保護する規定を設けています。

「下請代金の減額」とは、下請事業者に責任がないのに、発注時に定められた金額から一定額を減じて支払うことをいいます。

下請法では、下請代金の減額を全面的に禁止しており、たとえ下請事業者との合意があったとしても下請法違反となります。なぜなら、親事業者から代金の減額を求められた場合、下請事業者はそれに応じざるを得ず、本当の意味での合意があったとは考え難いからです。

他にも、次のような行為を禁止しています。

  • 下請代金の支払遅延
  • 受領拒否
  • 不当返品
  • 物の購入強制・役務の利用強制
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済
  • 割引困難な手形の交付
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 不当な給付内容の変更ややり直し
  • 報復措置

以上のような規定があることを前提に、親事業者は、「コンプライアンス」を意識する必要があります。

基本的な考え方としては、親事業者は下請事業者に対して不当に不利益を与えるような行為を行わないことが重要です。

下請法の規定が守られているかについて監視・監督をしているのが「公正取引委員会」という組織です。
下請法の中で、公正取引委員会は親事業者に対して、原状回復措置など必要な措置をとるべきことを勧告する権限が与えられ、また中小企業庁とともに定期的な立入検査を行っています。

下請法の歴史

下請法の歴史を紐解いていきます。
時は昭和28年頃にまで遡ります。当時、朝鮮戦争特需終息後に発生した不況が深刻化して、製造業において下請代金の支払遅延が大きな問題となっていました。

これに対し、昭和28年の独占禁止法改正によって、不公正な取引方法が新たに禁止されました。

その一類型として、「優越的地位の濫用行為」が指定されたのですが、続けて昭和29年に「下請代金の不当な支払遅延に関する認定基準」が公表され、違法類型を明示して当該下請代金の支払遅延などの防止を図ったのです。

昭和30年に入り、景気回復の兆しが見え始めたため、下請代金の支払状況が改善されると見込まれていたのですが、予想に反し悪化していきます。

そこで、規制対象とする取引内容を製造委託と修理委託に限定して、親事業者と下請事業者を資本金等の額によって外形的に定め、取引条件が明確となっていないことで紛争が生じているケースに対応するため、親事業者と下請事業者との取引条件を明記した書面に係る交付、作成、保存を義務付けた「下請代金支払遅延等防止法」が制定されました。

昭和36年には、金融引締めが強化されたことによって、下請取引が悪化することが見込まれたため、昭和37年に支払期日の法定化、交付書面における下請代金の支払期日に係る記載事項の追加などが法改正によって明確化されました。

同時に、親事業者の禁止事項として買いたたきや物の購入強制及び報復措置も追加され、現行の下請法に近い形に進化しています。

その後、資本金の基準の見直しやIT化などによる社会情勢の変化によって、少しずつ下請法も変化しています。

改正下請法の概要

下請法は時代背景に応じて改定されていると説明しましたが、直近で改正が行われたのが2016年です。

主な改定ポイントを解説すると、下請法の運用指針となっている下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準が改定されました。

この改定によって、これまでの繰り返し違反として取締の対象となった事例や、事業者が問題ないと誤解しやすい行為が具体的に示されています。

これによって、今まで誤解されがちであった部分がクリアになったことを意味しています。

次に、振興基準の改正が行われました。

振興基準とは、親事業者と下請事業者が信頼関係に根ざした長期的な共存共栄関係を築くために、両者の努力や協力のあり方、望ましい取引のあり方を示すものです。

振興基準の改正では、買いたたきについて親事業者に対して原価低減要請での経済合理性や十分な協議の確保に対して努力することや、下請事業者から労務費上昇分に踏まえて対価見直しの要請があった場合は十分協議することが追加されています。

また、不当な経済上の利益提供要請について金型や木型等の保管、管理の適正化について追加されています。

下請法が適用される企業は?

下請法の適用対象となる取引は、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」があると説明しました。そして、「情報成果物作成委託」の一例として、システム開発があると述べました。加えて、下請法の適用条件として、「資本金の額」という要素もあります。

「情報成果物作成委託」を例に説明すると、次の2つの条件のうちどちらかを満たすと下請法が適用されます。

  • 資本金5000万円を超える会社が、資本金5000万円以下の会社(これには個人を含む)に対して、情報成果物作成又は役務提供を委託すると、資本金5000万円を超える会社が親事業者、資本金5000万円以下の会社が下請事業者となります(下請法2条7項3号)。
  • 資本金1000万円を超え5000万円以下の会社が、資本金1000万円以下の会社(これには個人を含む)に対し、情報成果物作成又は役務提供を委託すると、資本金1000万円超え5000万円以下の会社が親事業者、資本金1000万円以下の会社が下請事業者となります(下請法2条7項4号)。

また、社会福祉法人、公益財団法人、公益社団法人、一般財団法人、一般社団法人、学校法人等も固定的な財産において判断され、下請法上の親事業者となり得ますので、同法の規制下におかれることになります。

下請法を遵守する上での注意点は?

下請法違反の事例は枚挙にいとまがありませんが、他の会社が下請法を遵守していないからといって、自社も同法を順守しなくても良いというわけではありません。

下請法も立派な法律ですので、違反することで企業イメージが悪化します。

では、下請法を遵守する上での注意点にはどのようなものがあるのでしょうか?

まずは、支払期日を定めることに注力してください。

親事業者は給付の内容について検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、下請代金の支払期日を定める必要があります(下請法2条の2第1項)。

支払期日を定めなかった場合、次のように支払期日が決定します(下請法2条の2第2項)。

  • 当事者間で支払期日を定めなかったときは、物品等を実際に受領した日
  • 当事者間で合意された取決めがあっても、物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたときは、受領した日から起算して60日を経過した日の前日

事業者が支払期日までに下請代金を支払わなかった場合は、受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払が行われる日までの期間、その日数に応じ下請事業者に対して未払金額に遅延利息として年率14.6%を乗じた額を支払う義務があります(下請法4条の2、公正取引委員会規則)。

下請代金の金額や経過日数によっては非常に大きな金額を支払わねばなりませんので、適切な対応が望まれます。

また、下請法では、発注内容を書面等の方法によってにして交付することも求められています(下請法3条)。

口頭での発注ですと、親事業者・下請事業者間で発注内容の認識に齟齬が生じ、その齟齬が原因で様々なトラブルが発生します。トラブルの解決においては、通常立場的に上位にある親事業者本位の解決が図られ、下請事業者が思わぬ不利益を被る可能性が高いです。下請法では、それを未然に防止するために親事業者は、発注時に、発注内容を明確に記載した書面等を交付する必要があります。

記載すべき事項については法令で具体的に定められており、原則として該当するものをすべて決定した上で記載することが重要です。

中小企業庁が発注書のサンプルを提供しているので、参考にするとよいでしょう。

最後に、取引記録を書類として作成して保存する対応も重要です。

下請取引が完了した場合は、親事業者は給付内容や下請代金の金額など、取引に関する記録を書類として作成して2年間保存することが義務付けられています(下請法5条)。

記録を残すことで、違反行為に対する親事業者の注意を喚起すると同時に、公正取引委員会や中小企業庁による調査や検査への迅速な対応にも役立ちます。

遵守していない場合の罰則は?

下請法は違反が後をたたないと説明しましたが、この場合、具体的にどのような罰則があるのでしょうか?

まず、違反がないかの調査として、公正取引委員会や中小企業庁が毎年書面調査を行っています。
書面調査は、主に取引記録などの調査を行います。よって、先に紹介した記録は常に管理して、いつでも見せることができる状態とすることが重要なのです。

また、抜き打ちでの立入調査が行われることがあります。

これは、下請Gメンと呼ばれる取引調査員が下請け事業主に対してヒアリングを行い、その情報をもとに行われることがあります。

もし違反行為が認められた場合は、禁止行為の取りやめや原状回復、再発防止措置が要求されます。
もし勧告を受けたら、まずは改善報告書を提出しなければなりません。もし勧告に従わない場合は、独占禁止法に従って排除措置命令や課徴金納付命令が行われることがあります。民事上の損害賠償請求もされる可能性があるので、適切に対応することが望まれます。
勧告を受けた段階で、公正取引委員会のホームページに企業名と違反内容、勧告内容が公表されるのも特徴です。

さらに、発注書面の交付義務や取引記録に関する書類の作成・保存義務に違反した場合、違反した本人と親事業者である企業に対して最大50万円の罰金が科されます(下請法10条)。

他にも、親事業者に対する定期的な書面調査を報告しなかったり、書面調査で虚偽の報告をした場合、公正取引委員会や中小企業庁の職員による立入検査を拒否したり妨害する場合においても、罰金が科されることがあります(下請法11条)。

まとめ

これまで見てきたことからわかるように、下請法は、下請事業者を手厚く保護している法律です。
そのぐらい、親事業者及び下請事業者の間には交渉力の差があります。
実際、下請法がこれだけ下請事業者を手厚く保護しているにも関わらず、多くの違反事例があるのが現状です。コンプライアンスを掲げる大手企業ですら違反している事例が散見されます。

下請事業者を使っている親事業者は、自社の取引が下請法に違反していないかをチェックしましょう。その際、下請法の規定に詳しい弁護士に相談してみるとよいでしょう。そのうえで、契約内容、下請事業者への発注フロー、書面の取交しの有無とその内容、下請代金の支払期日などを見直してみましょう。

下請法は、親事業者にとっては厳しい法律のように感じられるかもしれません。しかし、下請事業者も重要な仕事上のパートナーです。親事業者と下請事業者が対等に取引を行い、win-winの関係を築くための手助けをしてくれている法律と捉えることもできます。
「三方よし」という言葉があるように、事業は各ステークホルダーを幸せにするものでなければなりません。誰かの犠牲の上に成り立つ事業は長続きしません。

東京スタートアップ法律事務所は、事業を行う皆さまが法的リスクを回避し、憂いなく事業に集中するためのお手伝いをさせていただきたいと考えております。
それこそが、我々にとっての「三方よし」であると考えるからです。

代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。弁護士法人東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。