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弁護士 高島 宏彰

賞与減額(ボーナスカット)を違法としないためのポイントを解説

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令や世界経済の悪化により、企業経営にも大きな影響が生じています。業績の悪化により、やむを得ず従業員の賞与減額(ボーナスカット)を検討されている経営者の方も少なくないかと思います。

従業員に毎月支払う通常の賃金とは異なり、賞与の支給については会社に一定の裁量が認められています。しかし、賞与は従業員の生活設計に関わるものなので、安易に賞与減額を行うと従業員との感情的な衝突やモチベーションの低下をもたらし、法的な紛争に発展する場合もあります。

今回は、従業員の賞与減額を検討されている方を対象に、賞与減額を違法としないためのポイントを解説します。

賞与(ボーナス)とは

そもそも、賞与とは法律的にどのような性質のものなのでしょうか。賞与の特徴や法律上の性質について説明します。

1. 賞与の特徴

賞与は、一般的に就業規則などで規定された算定基準に基づいて支給されます。賞与の支給額は、基本給に対して、会社の業績や従業員の貢献の度合いに応じて決定された支給率(何か月分)を乗じた額とされる場合が大半です。業績が著しく低下した場合などには、支給を延期する、または支給しないことが定められるケースもあります。

つまり、賞与は月々支払う通常の賃金のように支給することが法律で義務付けられているものではなく、労使間の協議や成績の査定などを経て初めて支給するかどうか、支給する場合の支給額や支給方法、支給期日、支給対象者が決定されます。この点が賞与の最大の特徴といえるでしょう。

2. 賞与の目的

賞与には以下のような目的があります。

  • 従業員とその家族の生活を支える
  • 会社の収益を従業員に分け与える
  • 従業員のモチベーションを高める

つまり、賞与は「労働の対価の後払い」としての側面と「今後の期待への支払い」という側面を併せ持っているといえます。

賞与を適切に運用することにより、従業員のモチベーションを刺激し、会社の成長のために動いてもらうための動機づけを行うことができます。また、会社の業績や従業員の貢献度に応じて賞与の支給額を柔軟に決めることにより、人件費の調整も可能になります。

賞与減額(ボーナスカット)が違法とされる条件

前述した通り、支払いについて会社に一定の裁量が認められるのが賞与の特徴ですが、会社が一方的に賞与を減額したり支払わなかったりしたことが裁判などで争われ、違法とされるケースもあります。具体的にどのような場合に違法となるか説明します。

1. 違法になるかどうかは就業規則の規定による

賞与減額が違法になるか否かは、基本的には就業規則の規定に基づいて判断されます。例えば、就業規則に「賞与は、算定対象期間に在籍した労働者に対し、基本給の4カ月分を支給する」という規定があったとします。就業規則は会社と労働者の間で交わされる約束事ですので、この場合は会社の業績を問わず賞与を支払うことが従業員に保障されていることになります。したがって、従業員の承諾を得ずに賞与の支払いを行わなければ違法となります。

また、就業規則に「賞与の額は基本給の4カ月分を基準とし、業績に応じて増減するが、基本給の2カ月分は保障するものとする」という内容の規定が定められていた場合、1カ月分の賞与しか支払わないと違法となります。

2. 規定があれば常に適法というわけではない

このような事態を避けるため、多くの企業では就業規則の中に「会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給額を減額、又は支給しないことがある」などという例外規定が設けられています。

しかし、業績不振の場合に賞与を減額できるという規定があるからといって簡単に賞与のカットが認められるわけではありません。例えば、上司による不当な評価を根拠に賞与をカットする、実際には業績が上がっているにもかかわらず悪化しているように偽って賞与の支払いを拒否するなどの行為は不当と判断されることになるでしょう。

賞与減額(ボーナスカット)が適法となる条件

賞与の減額を適法に実施するにはどうすればよいのでしょうか。適法に実施するためのポイントを説明します。

1. まずは就業規則の見直しを

就業規則などで支払い基準が明確にされているにもかかわらず不当な理由により賞与を支払わないことは、いわば従業員との約束を反故にする行為ですので、裁判所から違法とされる可能性が高くなります。そのため、就業規則にあらかじめ減額や不支給の可能性がある旨を明記しておくことは、従業員との間のトラブルを避けるために非常に重要です。

営業社員のインセンティブボーナスなど、就業規則等で賞与の算定基準が規定されないケースもあります。この場合、賞与を支払うかどうかは会社が任意で決めることができますので、賞与不支給が違法となることはありません。
なお、就業規則は作成しただけでは足りず、適切な方法で従業員に周知させなければ効力を生じませんので、その点には注意しましょう。

2. 実際に賞与減額を実施するときの注意点

実際に賞与減額を実施する際は、就業規則で定められた条件を満たしているか否かが問題となります。経営者が条件を満たしていると認識していても、それを裁判所に立証できなければ意味がありません。そこで、賞与減額を実施した合理的な理由を第三者に説明できるようにしておく必要があります

成績が悪い従業員の賞与を減額・不支給にした場合

賞与の減額・不支給は、どのような場合に適法となり、どのような場合に違法となるのでしょうか。典型的なケースとして、成績が悪い従業員の賞与を減額・不支給にした場合について説明します。

1. 正当な評価であれば可能

一部の従業員の成績が他の従業員と比べて著しく悪い、勤務態度が不良である等の理由により、賞与を減額・不支給とすることは認められるのでしょうか。
就業規則内に、社員の成績に応じて賞与の支給額を決定するという規定があれば、特定の従業員の賞与だけを減額することは可能です。ただし、前述の通り、減額・不支給の根拠となる評価は合理的なものでなければならず、不当な査定による減額・不支給は認められません。たとえば、成績は良好であるにもかかわらず、上司が個人的に気に入らないという理由で部下の賞与を減額した場合、違法とされる可能性が高いでしょう。

2. トラブルになったときの備え

全ての従業員を対象に賞与を減額する場合と比べて、特定の社員のみを対象とする場合は裁判所の判断も厳しくなる傾向にありますので特に注意が必要です。
成績不良を理由とする減額や不支給を行う際には、平均的な社員との比較でどの程度成績が悪いかを客観的に数値化して説明できるようにしておくべきです。勤務態度不良を理由とする場合は、問題となる行為があったときに都度指導を行い、それでも改善が見られない場合には軽めの懲戒処分を下すなど、段階的に指導や処分を行うことが大切です。指導や処分の内容は、記録に残しておくようにしましょう。

退職予定の従業員の賞与を減額・不支給にした場合

既に退職することが決まっている従業員に対して賞与を支払いたくないと思われる経営者は多いかと思います。この場合、賞与の減額や不支給は認められるのでしょうか。

1. 支給日在籍要件を設ける

退職予定者への賞与の支払いについて説明する前に、退職後の従業員への賞与の支払いについて説明します。厚生労働省が公表している「モデル就業規則」では、賞与の算定対象期間と支給日を定め、算定対象期間に在籍していた従業員に限り賞与を支給する、と規定されています。しかし、この規定では、算定対象期間の途中で退職した人が賞与を日割りで請求することができるように解釈することもできます。

そこで、賞与の支給対象者を賞与支給日に在籍した者に限定するという規定を就業規則に設けることで、その日に在籍していない従業員に対する賞与を不支給とすることができます。このような規定を「支給日在籍要件」といいます。

ただし、会社が解雇権を濫用したことによって従業員が退職せざるを得なくなった場合には、支給日在籍要件があっても在籍していた分の賞与を支払わなくてはならない可能性があります。

2. 支給日に在職している場合

退職することは決まっているが支給日には在籍している場合は支給日在籍要件を満たしますので、会社側に賞与を支払う義務が生じます。満額支給することに抵抗があるのであれば、退職が決まっている者への賞与を減額できる旨の規定を就業規則に設けておく方法が考えられます。

もっとも、この場合でも賞与が支払われた直後に退職届を提出された際に賞与を返還するよう求めることはできません。前述したとおり、賞与には「労働の対価の後払い」としての側面と、「今後の期待への支払い」という側面がありますので、少なくとも「労働の対価の後払い」としての部分は支給するのが妥当だといえるからです。支給日在籍要件がない場合、退職後に賞与の支払いを巡ってトラブルになる可能性が高くなりますので、自社の就業規則を確認しておくことをおすすめします。

産休・育休取得者の賞与を減額・不支給にした場合

産休や育休を取得している従業員に対する賞与の減額や不支給は認められるのでしょうか。女性従業員の産休と育児休暇の場合について説明します。

1. 産休の場合

男女雇用機会均等法第9条3項には、女性労働者が産休を取得したことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならないと規定されています。また、厚生労働省によると、賞与等において不利益な算定を行うことも「不利益な取扱い」に含まれるとされています。
もっとも、厚生労働省の資料では、実際に休業していないにもかかわらず産休の請求を行ったことだけを理由に賞与を減額することは禁止されていますが、実際に産休を取得して休業したことを理由に減額することは禁止されていません。つまり、欠勤の日数分だけ賞与を減額することは妥当な措置とされています。ただし、病気などにより同じ期間休業した他の従業員と比べて不利に取り扱った場合には違法となり得ます。

2. 育休の場合

育児休業については、育児・介護休業法という法律で定められた休業制度で、女性だけでなく男性にも適用されます。
育児・介護休業法の第10条には「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と規定されています。このことから、産休の場合と同様に、育休を取得して休業したことを理由に賞与を減額することは認められるが、育休を請求したことのみをもって減額することは違法となると考えられます。

賞与減額(ボーナスカット)が違法か争われた事例

実際に賞与減額が問題となった裁判例をご紹介します。

1. 減額の理由の説明が不十分だった事案

東京地方裁判所平成24年12月27日判決は、デザイン会社の従業員がパンフレット等の誤植を4回発生させたことを理由に賞与を減額された事案で、裁判所が賞与減額は不当と判断したものです。この裁判では、従業員が関与したとされるミスの内容やそれによって会社に生じた損害に関する説明を会社が十分にできていないことを理由に従業員勝訴の判決が下されました。

2. 成績不良が従業員の能力の問題ではなかったとされた事案

大阪高等裁判所平成25年4月25日判決は、営業社員が成績不良を理由に賞与を減額された事案で、裁判所は必ずしも従業員の能力の問題ではなかったとして賞与減額を違法と判断しました。
前述した通り、特定の従業員に対する賞与減額については、裁判所は会社に対して厳しい判断をする傾向にあります。成績不良や勤務態度不良を理由に賞与を減額する場合には問題となった行為や指導・処分の内容を記録に残し、賞与の減額や不支給を行う理由を第三者に対して合理的に説明できるようにしておくことが求められます。

適切に賞与減額を行うためのポイント

適法に賞与減額を行うためには、就業規則に賞与が減額される場合がある旨や減額となる条件について明記しておくことが大切です。賞与の支払いを巡って退職時にトラブルとなるケースも多いため、退職後の従業員に賞与を支給しないときには算定対象期間や支給日在籍要件に関する規定を設けておく必要もあります。
また、実際に減額を行う際には、就業規則に定められた条件に該当する理由をきちんと説明できるようにしておきましょう。特定の従業員についてのみ減額する場合には特に注意が必要です。

まとめ

今回は、従業員の賞与減額を検討している方を対象に、賞与減額を違法としないためのポイント等について解説しました。

どのような会社にも業績のよい時期と悪い時期があり、業績が悪化して賞与を減額せざるをえない時もあります。賞与の減額を巡る従業員とのトラブルを回避するためには、就業規則の規定を見直すなどの準備が最も重要です。

東京スタートアップ法律事務所では、様々な企業の状況やニーズに合わせた就業規則の見直しを含む企業法務全般のサポートをさせていただいております。賞与の減額を巡る労使間トラブル等に関するご相談等も受け付けていますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士高島 宏彰 第二東京弁護士会
2012年筑波大学法科大学院卒。2017年弁護士登録。BtoC、CtoC取引等の法分野(消費者契約法・特定商取引法・資金決済法等)に明るく、企業法務全般に取り組んでいる。